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2.最初の犠牲者
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よほど我慢していたのであろう。押木が付き添う意思を見せると、亜由美は小走りで部屋の前へと向かい、扉を開け放つ。押木は亜由美の後に続いて部屋の前へ……。
「それじゃ、俺はここで待ってるから。何かあったら呼んでくれ」
すでに部屋の中に飛び込んでおり、ユニットバスの扉に手をかけていた間宮が振り返る。
「え、部屋の中まで入ってきてよ……」
「いや、それはさすがにさ……その、なんというか乙女のプライバシーに土足で踏み込むっていうか」
扉を隔てた向こう側で、今日知り合ったばかりの男が待っている。そのような状況に、彼女は不快感を抱かないのであろうか。ただでさえ、用を足すという行為をするのだから、少なくとも恥じらいくらいはあるはずだが。
「怖いからユニットバスの外で待ってて欲しい……。お願いっ!」
亜由美は恥じらう様子も見せず、それだけ言い放つとユニットバスの中へと姿を消した。それほどに、彼女の中では緊急を要していたのだろ。確かに、トイレに行きたいと言い出せるような状況ではなかったが。
一瞬、どうしたものかと悩んだ押木であるが、彼女自身が気にしていなければ問題はないと判断し、けれども気を遣ってユニットバスの扉からははなれたところで待つことにした。
ぐるりと部屋を見回してみる。当然ながら可愛らしいぬいぐるみや、姿見などは置いてない。置かれている家具の配置や部屋の間取りも、押木に割り当てられた部屋と全く同じである。
生活には困らないように食料などは取り揃えられているが、この無機質な部屋で過ごすのは、女性には少々厳しいような気がした。化粧品もなければ、着替えもない。ユニットバスが設置されているのが、唯一の救いだ。
今はいいのかもしれないが、このままずっと化粧を落とさないわけにはいかないだろう。男からすれば別にすっぴんでも構わないのだが、きっと彼女達からすれば苦痛に違いない。もしかすると、澪が部屋から出たがらないのは、その辺りにも原因があるのかもしれなかった。
――亜由美がトイレに入ってから、どれだけ経過したのだろうか。ぼんやりと亜由美がユニットバスから出てくるのを待っていた押木も、あまりにも時間のかかるトイレに不安を抱き始めた。
外から声をかけてみるのは気が引けた。大体、トイレで用を足している女性に声をかける勇気などない。しかし、どうすべきか迷っている自分がいる。
問題は各部屋がユニットバスで繋がっているということだった。そして、現段階で天井裏を伝って亜由美を殺害することのできる人物が一人だけ存在する。
……仮に澪が犯人だったとしたら。そう考えると、迷わないほうがおかしい。
こうして迷っている間にも、ユニットバスの中では良くないことが起こっているのかもしれない。亜由美が声なき助けを押木に求めているのかもしれない。散々迷った挙句、押木は小さく頷くと、ユニットバスの扉の前へと立った。
これで何事もなければ、乙女に恥をかかせたデリカシーのない男だと思われるだけですむ。扉を開けたら亜由美の死体が転がっていたなんてよりかはマシだ。
「それじゃ、俺はここで待ってるから。何かあったら呼んでくれ」
すでに部屋の中に飛び込んでおり、ユニットバスの扉に手をかけていた間宮が振り返る。
「え、部屋の中まで入ってきてよ……」
「いや、それはさすがにさ……その、なんというか乙女のプライバシーに土足で踏み込むっていうか」
扉を隔てた向こう側で、今日知り合ったばかりの男が待っている。そのような状況に、彼女は不快感を抱かないのであろうか。ただでさえ、用を足すという行為をするのだから、少なくとも恥じらいくらいはあるはずだが。
「怖いからユニットバスの外で待ってて欲しい……。お願いっ!」
亜由美は恥じらう様子も見せず、それだけ言い放つとユニットバスの中へと姿を消した。それほどに、彼女の中では緊急を要していたのだろ。確かに、トイレに行きたいと言い出せるような状況ではなかったが。
一瞬、どうしたものかと悩んだ押木であるが、彼女自身が気にしていなければ問題はないと判断し、けれども気を遣ってユニットバスの扉からははなれたところで待つことにした。
ぐるりと部屋を見回してみる。当然ながら可愛らしいぬいぐるみや、姿見などは置いてない。置かれている家具の配置や部屋の間取りも、押木に割り当てられた部屋と全く同じである。
生活には困らないように食料などは取り揃えられているが、この無機質な部屋で過ごすのは、女性には少々厳しいような気がした。化粧品もなければ、着替えもない。ユニットバスが設置されているのが、唯一の救いだ。
今はいいのかもしれないが、このままずっと化粧を落とさないわけにはいかないだろう。男からすれば別にすっぴんでも構わないのだが、きっと彼女達からすれば苦痛に違いない。もしかすると、澪が部屋から出たがらないのは、その辺りにも原因があるのかもしれなかった。
――亜由美がトイレに入ってから、どれだけ経過したのだろうか。ぼんやりと亜由美がユニットバスから出てくるのを待っていた押木も、あまりにも時間のかかるトイレに不安を抱き始めた。
外から声をかけてみるのは気が引けた。大体、トイレで用を足している女性に声をかける勇気などない。しかし、どうすべきか迷っている自分がいる。
問題は各部屋がユニットバスで繋がっているということだった。そして、現段階で天井裏を伝って亜由美を殺害することのできる人物が一人だけ存在する。
……仮に澪が犯人だったとしたら。そう考えると、迷わないほうがおかしい。
こうして迷っている間にも、ユニットバスの中では良くないことが起こっているのかもしれない。亜由美が声なき助けを押木に求めているのかもしれない。散々迷った挙句、押木は小さく頷くと、ユニットバスの扉の前へと立った。
これで何事もなければ、乙女に恥をかかせたデリカシーのない男だと思われるだけですむ。扉を開けたら亜由美の死体が転がっていたなんてよりかはマシだ。
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