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2.最初の犠牲者
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「私も同じ。友達はいるし、学校生活もつまんないってわけじゃない。でも、周りの友達みたいに高校生活を楽しんでいるかって言われたら違う。やらなきゃいけないから勉強して、お金がないと友達と遊べないからアルバイトして、でも本当はなにをしたいのか分からない。周りに合わせて髪を染めて、スカートも短くして、別になんとも思わないアーティストの歌を聞いて、観たくもないテレビドラマを観て……。全部嫌われたくないからやっているだけ。一人ぼっちになりたくないからやっているだけなの。私はどこにでもいる普通の女子高生。誰よりもそれを意識していたのに」
そんな亜由美の瞳には、うっすらと涙がにじんでいた。まだ初対面に近い押木に、こんな内面を晒すような真似をしてしまうのは、きっと心が完全に落ち着いていないからなのであろう。
「見つかったね。少なくとも俺と君の共通点は……」
押木はそう言うと、無理に笑顔を浮かべた。当然ながら、これが運営の用意した答えなどとは思っていない。
「どこかで自分に不満を持っているんだ。いや、自分の生き方に不満を持っていて、でもどうしていいか分からないでいる。周りと同じように振る舞えば振る舞うほど、自分が惨めに思えてきて、どこか燻ったまま惰性に沿って生きている。君の話を聞くと、そんな感じがするんだけど、俺の勝手な勘違いかな?」
押木は、自分が特別なのだとばかり思っていた。
普通に進学をして、意識の高い学生やらを演じ、大手の企業から内定をもらい、そこまで美人でもないが不細工でもない嫁をもらって、周りと同じように子供を授かり、ストレスを抱えながら仕事をして、歳を重ねて生涯の幕を普通に閉じる。
良く言えば安定していて、悪く言えば平々凡々な生活を送ることを、押木は小さい頃から嫌悪していた。それが、今の有様に直結していることは自覚している。
馬鹿にしていた意識の高い学生たちは、堅実に就職先を決め、どこか斜に構えている押木を尻目に、俗に言う平々凡々な生活に喜んで身を投じた。一方、どこかで自分が特別であると勘違いしている押木は、平凡を嫌ったがゆえに学校社会というものにさえ辟易してしまい、留年を余儀なくされてしまった。
その事実を否定したくて……自分は普通の人間とは違うのだからと自らに言い訳をして、必死に自らの存在を肯定してきた。だが、それを惨めに思っているのは、誰よりも自分だった。
亜由美も押木と同じように、周りに合せようとすることに辟易しており、それでも生き方を変えれない自分を惨めに思っているのであろう。
日本の風習と言うか、日本人の性質と言うべきか、どうも日本は多数が正しくて少数が間違っているという概念が存在する。多数決なんて言葉があるのが良い証拠だ。
少数派は、例えそれが正しくとも排除され、多数派は、それが間違いであろうともまかり通ってしまう。だから、日本人は周りと極端に異なることを嫌う。なんせ、周りと極端に異なると、もれなく多数派の悪意がつきまとうからだ。
つまりは群れなのだ。日本人という群れ。押木は群れることを嫌って群れから離れたはいいが、その先に絶望しかないことを悟った動物。群れれば楽なのに、ちっぽけなプライドが群れることを拒否している一匹狼。
一方、亜由美は群れていながら、そのこと自体に疑問を抱いている動物。自分のやりたいことや好きなことは他人と異なっているのに、群れから離れるのが怖くて周りと同じように振る舞っている憐れな羊。
そんな亜由美の瞳には、うっすらと涙がにじんでいた。まだ初対面に近い押木に、こんな内面を晒すような真似をしてしまうのは、きっと心が完全に落ち着いていないからなのであろう。
「見つかったね。少なくとも俺と君の共通点は……」
押木はそう言うと、無理に笑顔を浮かべた。当然ながら、これが運営の用意した答えなどとは思っていない。
「どこかで自分に不満を持っているんだ。いや、自分の生き方に不満を持っていて、でもどうしていいか分からないでいる。周りと同じように振る舞えば振る舞うほど、自分が惨めに思えてきて、どこか燻ったまま惰性に沿って生きている。君の話を聞くと、そんな感じがするんだけど、俺の勝手な勘違いかな?」
押木は、自分が特別なのだとばかり思っていた。
普通に進学をして、意識の高い学生やらを演じ、大手の企業から内定をもらい、そこまで美人でもないが不細工でもない嫁をもらって、周りと同じように子供を授かり、ストレスを抱えながら仕事をして、歳を重ねて生涯の幕を普通に閉じる。
良く言えば安定していて、悪く言えば平々凡々な生活を送ることを、押木は小さい頃から嫌悪していた。それが、今の有様に直結していることは自覚している。
馬鹿にしていた意識の高い学生たちは、堅実に就職先を決め、どこか斜に構えている押木を尻目に、俗に言う平々凡々な生活に喜んで身を投じた。一方、どこかで自分が特別であると勘違いしている押木は、平凡を嫌ったがゆえに学校社会というものにさえ辟易してしまい、留年を余儀なくされてしまった。
その事実を否定したくて……自分は普通の人間とは違うのだからと自らに言い訳をして、必死に自らの存在を肯定してきた。だが、それを惨めに思っているのは、誰よりも自分だった。
亜由美も押木と同じように、周りに合せようとすることに辟易しており、それでも生き方を変えれない自分を惨めに思っているのであろう。
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少数派は、例えそれが正しくとも排除され、多数派は、それが間違いであろうともまかり通ってしまう。だから、日本人は周りと極端に異なることを嫌う。なんせ、周りと極端に異なると、もれなく多数派の悪意がつきまとうからだ。
つまりは群れなのだ。日本人という群れ。押木は群れることを嫌って群れから離れたはいいが、その先に絶望しかないことを悟った動物。群れれば楽なのに、ちっぽけなプライドが群れることを拒否している一匹狼。
一方、亜由美は群れていながら、そのこと自体に疑問を抱いている動物。自分のやりたいことや好きなことは他人と異なっているのに、群れから離れるのが怖くて周りと同じように振る舞っている憐れな羊。
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