上 下
66 / 94
2.最初の犠牲者

30

しおりを挟む
「私も同じ。友達はいるし、学校生活もつまんないってわけじゃない。でも、周りの友達みたいに高校生活を楽しんでいるかって言われたら違う。やらなきゃいけないから勉強して、お金がないと友達と遊べないからアルバイトして、でも本当はなにをしたいのか分からない。周りに合わせて髪を染めて、スカートも短くして、別になんとも思わないアーティストの歌を聞いて、観たくもないテレビドラマを観て……。全部嫌われたくないからやっているだけ。一人ぼっちになりたくないからやっているだけなの。私はどこにでもいる普通の女子高生。誰よりもそれを意識していたのに」

 そんな亜由美の瞳には、うっすらと涙がにじんでいた。まだ初対面に近い押木に、こんな内面を晒すような真似をしてしまうのは、きっと心が完全に落ち着いていないからなのであろう。

「見つかったね。少なくとも俺と君の共通点は……」

 押木はそう言うと、無理に笑顔を浮かべた。当然ながら、これが運営の用意した答えなどとは思っていない。

「どこかで自分に不満を持っているんだ。いや、自分の生き方に不満を持っていて、でもどうしていいか分からないでいる。周りと同じように振る舞えば振る舞うほど、自分が惨めに思えてきて、どこか燻ったまま惰性に沿って生きている。君の話を聞くと、そんな感じがするんだけど、俺の勝手な勘違いかな?」

 押木は、自分が特別なのだとばかり思っていた。

  普通に進学をして、意識の高い学生やらを演じ、大手の企業から内定をもらい、そこまで美人でもないが不細工でもない嫁をもらって、周りと同じように子供を授かり、ストレスを抱えながら仕事をして、歳を重ねて生涯の幕を普通に閉じる。

 良く言えば安定していて、悪く言えば平々凡々な生活を送ることを、押木は小さい頃から嫌悪していた。それが、今の有様に直結していることは自覚している。

 馬鹿にしていた意識の高い学生たちは、堅実に就職先を決め、どこか斜に構えている押木を尻目に、俗に言う平々凡々な生活に喜んで身を投じた。一方、どこかで自分が特別であると勘違いしている押木は、平凡を嫌ったがゆえに学校社会というものにさえ辟易してしまい、留年を余儀なくされてしまった。

 その事実を否定したくて……自分は普通の人間とは違うのだからと自らに言い訳をして、必死に自らの存在を肯定してきた。だが、それを惨めに思っているのは、誰よりも自分だった。

 亜由美も押木と同じように、周りに合せようとすることに辟易しており、それでも生き方を変えれない自分を惨めに思っているのであろう。

 日本の風習と言うか、日本人の性質と言うべきか、どうも日本は多数が正しくて少数が間違っているという概念が存在する。多数決なんて言葉があるのが良い証拠だ。

 少数派は、例えそれが正しくとも排除され、多数派は、それが間違いであろうともまかり通ってしまう。だから、日本人は周りと極端に異なることを嫌う。なんせ、周りと極端に異なると、もれなく多数派の悪意がつきまとうからだ。

 つまりは群れなのだ。日本人という群れ。押木は群れることを嫌って群れから離れたはいいが、その先に絶望しかないことを悟った動物。群れれば楽なのに、ちっぽけなプライドが群れることを拒否している一匹狼。

 一方、亜由美は群れていながら、そのこと自体に疑問を抱いている動物。自分のやりたいことや好きなことは他人と異なっているのに、群れから離れるのが怖くて周りと同じように振る舞っている憐れな羊。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...