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2.最初の犠牲者

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 いまだに痺れる手足に鞭を打って、押木は宮澤に続いて部屋を後にする。ほんの一時間もしない間に二人もの人間が殺害されてしまった。しかも、仲沢にいたっては先程まで押木達と一緒にいたのにだ。

 フロアに戻ると、不安と恐怖で顔をくしゃくしゃにした亜由美達が、待っていたとばかりに押木達の方へと駆けてくる。

 宮澤が首を横に振って仲沢の死を告げると、とうとう亜由美は泣き出してしまった。杏奈も同様に泣き出してしまいそうな顔をしていたが、亜由美が先に泣き出してしまったことで泣くに泣けなくなってしまったようだ。亜由美をなんとか落ち着かせようと、おろおろしている。由紀子は澪に拘束されたショックが大きいのか、ただ漠然とそんな二人を眺めていた。

「戸田君、今のを聞いただろ? 残念ながら仲沢君も亡くなってしまった。やはり、部屋に篭っているのは危険だ。こっちにきてくれないだろうか?」

 それを尻目に宮澤は澪の部屋の前へと歩み寄り、小さくノックをしながら部屋の中へと声をかける。

「……誰があいつを殺したの? それが分かるまでフロアになんて出れるわけがないじゃない。むしろ、どうして貴方達は平気なの? その中に犯人がいるのよ?」

 扉越しに返ってきた澪の返答は、実にネガティブなものであった。明らかな警戒心が声に混じっている。

「まるで自分は関係がないと言いたいばかりだな……。君がそうしたいのなら構わないが、それは君の立場が危うくなるだけだぞ」

 押木達が見守る中、扉越しの議論が熱を帯び始める。

「勝手にすれば? 私は自分が犯人じゃないことを知っている。それに、天井裏から各部屋に出入りできることも……。だから、天井裏からの侵入さえ警戒していれば問題はないわ」

 徐々にヒステリック気味になってくる澪の声に、宮澤は小さな溜め息をつく。

「いいか、良く聞いてくれ。仲沢君が殺害されたのは、私達がフロアに出て来てからのわずかな時間だ。そして、フロアには君以外の全員が集まっていた。この状況で、誰が彼を殺害可能だったのか……言わなくても分かるだろ?」

 ちょうど、押木も同じようなことを考えていた。近藤の件に関しては別にしても、仲沢の件に関しては犯行が可能だった人物が極端に絞られることになる。

 亜由美、由紀子、杏奈、宮澤、そして押木は、仲沢の遺体が見つかるまでフロアにいた。つまり、この五人に関してはアリバイが成立する。フロアにいた人間の目を掻い潜り、部屋に残っていた仲沢を殺害するなど不可能である。だが、一人だけフロアの人間の目には届かぬ者がいた。

「それは、私が犯人だって言いたいの? でも、私は扉越しに貴方に受け答えしていたじゃない。それとも、受け答えをしながら天井裏を伝って彼を殺害したと? そんなこと不可能じゃない? それに、もっと現実的な可能性があるんじゃない? 彼を呼びに行ったのは誰だったっけ?」

 扉の向こう側からの反論に、一同の視線が押木へと集まる。

「まさか、俺が殺したとでも言いたいのか?」

 押木は自分が犯人ではないことを知っている。しかし、仲沢を殺害するチャンスがあったのは紛れもない事実だった。
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