黄昏の暁は密室に戯れるか

２.最初の犠牲者

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　宮澤についてきた杏奈は、それを見た途端フロアへと逃げ帰ってしまった。そして、また例のふざけた番組が始まる。ついさっき聞いたばかりだというのに……。

『いやぁ、こうしてみなさんにお会いできるのは、もう少し先になるとばかり思っていたんですけどねぇ。思ったより早い再会に私感激しております。それでは、今回も張り切っていきましょう！』

　仲沢を見下ろし、言葉を失ったまま顔を見合わせる押木と宮澤。その有様を楽しんでいるかのように、件の鼻につく声が喋り出した。

『あまりにも展開が早すぎて、こちらも準備が間に合っておりません！　ですから、今回はニュースだけにさせていただきます！』

　リスナーを完全に置いてきぼりにして、ラジオ番組の名を借りた放送は続く。

『近藤さんに続き、仲沢義明さんがお亡くなりになりました。現場は押木準さんの自室で、死因は絞殺です。みなさんがフロアで一悶着している間に殺害された模様です』

　それは確かに現実だった。わざわざ報告されなくとも一目瞭然の現実。血の気が引いて女性のように真っ白になった肌。物言いたげに虚空に投げられた視線。そこにあったのは確かに仲沢だったなにかで、今はなんなのか分からない物体でもあった。

　ほんの少し前に、殺意に満ちた表情で押木に飛びかかった男の姿は、今や見る影もなかった。

　ついさっきまで息をしていた。ついさっきまで人格があった。その人格が捻じ曲がっていようが、仲沢という人物は確かに生きていたのだ。それが、ほんの少しだけ目を離した隙に、人間だったなにかへと変化を遂げてしまった。

　近藤に続き、仲沢も死んでしまった。そして、手口を見る限り間違いなく他殺であった。

『ちなみに申し上げておきますが、今回の殺人も犯人の仕業です。あ、地下室に集まった人間の中に犯人がいるんだから当然ですよね。それでは、ご報告はこれくらいにして、みなさんお待ちかねのヒントターイム！　次のヒントはこちらになります。よく聞いておいてくださいね』

　こんな状況であるのに、いざヒントが与えられるとなると耳を傾けてしまう自分に、ほとほと嫌気が差した。ただ、これは理性的な行動ではなく、きっと生存するための本能が働いてしまったがゆえの行動なのであろう。

『――【あなた達の中では絶対に勝てない人が、答えの鍵を握っています】です。もう一度言いますよ。【あなた達の中では絶対に勝てない人が、答えの鍵を握っています】がヒントです。いやぁ、テンポよく展開するのは嫌いじゃないんですけど、こうもサクサク人が死んでしまうのも考えものです。みなさん、もう少し警戒心と危機感を持って共同生活に挑みましょう。それでは』

　新たに与えられたヒントも意味が全く分からないものであり、口を挟んでも無視されることを学習したのか、誰も反論しようとはしなかった。

｢とにかく、フロアに戻ろう。どうやらゆっくりしている暇はなさそうだからな｣

　二度目の死亡報告に呆然としていた押木を、宮澤の言葉が現実へと連れ戻した、もっとも、非常に残酷な現実へとだが。