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2.最初の犠牲者
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澪の声は抑揚を失い、まるで機械が喋っているかのように、澪の意志だけを伝えるものとなっていた。
「だから仲沢をたぶらかしたんだな?」
澪を刺激しないようにするためか、一定の距離を保ったまま、やはり宮澤も言葉を道具として扱う。今、口を開けば間違いなく声を荒げてしまうであろう押木には真似ができないことでもあった。
いや、目の前で由紀子が人質にとられ、今にも殺されてしまいそうなのだ。ここで冷静に対応できるほうが不思議なくらいだ。
「たぶらかした? ただアドバイスをしてあげただけじゃない。誰だって死にたくないだろうし、他のどんな人間よりも自分が可愛い。他人を犠牲にしてでも生き残りたいと思うのは本能みたいなものなのよ。だから、殺せばいいじゃないって言ってあげたの、だって、赤の他人だもの。今日の今日まで会ったことのなかった人間が死のうが関係ない」
澪の手に力が入り、フォークの先端が由紀子の首筋へと食い込む。由紀子が苦悶の表情を見せるが、まだフォークが突き刺さったわけではなさそうだった。
澪が混乱しているようには見えなかった。狂ってしまったかのようにも見えなかった。しばらく澪の様子に適する言葉を探した押木だったが、その言葉は見つからなかった。
澪にとっては、これが普通なのだ。澪という人間は、元からこのような考えを持っている冷酷な人間なのだろう。結局、押木はそう解釈するしかなかった。
「そうだな。赤の他人が死んでも関係はないだろう。しかし、彼女をこの場で殺すのならば私達も黙っていない。それくらい分かっているだろう?」
宮澤はそう言うと、押木達の顔を見るかのように周囲に視線を張り巡らせた。
「間宮君、浦河君、それに押木君……。彼女が北村君を刺したら一斉に飛び掛かるぞ。どうやら彼女は自分のために私達まで殺してしまうつもりらしいから、遠慮する必要はない。彼女自身が言っているように、誰かを殺せばヒントが手に入るんだからな」
それはさすがに言い過ぎだ。押木がそう口を挟もうとする前に、宮澤は押木にだけ分かるようにウインクをしてみせた。中年のウインクは中々にきついものがあったが、それは宮澤に何等かの意図があることを示唆していた。
「戸田君、君に選択肢を与えよう。彼女を殺して私達に殺されるか、それとも彼女を解放して私達に従うか。聡明そうな君のことだ。どちらが賢明なのかは言わずとも分かるはずだ」
宮澤というキャラクターからは到底想像できぬ物騒な発言だった。だが、由紀子を盾に取られている以上、こうするより他に方法がないのかもしれない。
つまり、多勢に無勢ということだ。澪が由紀子を殺せば、押木、宮澤、亜由美、杏奈の四人が一斉に敵となる。なんだかんだで澪は女性なのだから、男手が含まれる四人を相手にするには明らかに不利だ。そして、宮澤はそんなつもりはないのだろうが、殺害をほのめかすようなことを口にすれば、彼女も従わざるを得なくなる。
「戸田君、今のところ私の中では君が一番の危険人物だ。ヒントのために他の人間を犠牲にしようとするのであればなおさらだ。ここで君が北村君を殺すのであれば、私達は君を殺さねばならない。できることなら、こんな不毛なことはしたくない。分かってくれ……。それに必ず私が犯人を見つけ出してみせる。だから、北村君を解放するんだ」
脅しているのか、それとも懇願しているのか区別のつかぬ宮澤の物言いに、澪は若干戸惑っているようだった。
「だから仲沢をたぶらかしたんだな?」
澪を刺激しないようにするためか、一定の距離を保ったまま、やはり宮澤も言葉を道具として扱う。今、口を開けば間違いなく声を荒げてしまうであろう押木には真似ができないことでもあった。
いや、目の前で由紀子が人質にとられ、今にも殺されてしまいそうなのだ。ここで冷静に対応できるほうが不思議なくらいだ。
「たぶらかした? ただアドバイスをしてあげただけじゃない。誰だって死にたくないだろうし、他のどんな人間よりも自分が可愛い。他人を犠牲にしてでも生き残りたいと思うのは本能みたいなものなのよ。だから、殺せばいいじゃないって言ってあげたの、だって、赤の他人だもの。今日の今日まで会ったことのなかった人間が死のうが関係ない」
澪の手に力が入り、フォークの先端が由紀子の首筋へと食い込む。由紀子が苦悶の表情を見せるが、まだフォークが突き刺さったわけではなさそうだった。
澪が混乱しているようには見えなかった。狂ってしまったかのようにも見えなかった。しばらく澪の様子に適する言葉を探した押木だったが、その言葉は見つからなかった。
澪にとっては、これが普通なのだ。澪という人間は、元からこのような考えを持っている冷酷な人間なのだろう。結局、押木はそう解釈するしかなかった。
「そうだな。赤の他人が死んでも関係はないだろう。しかし、彼女をこの場で殺すのならば私達も黙っていない。それくらい分かっているだろう?」
宮澤はそう言うと、押木達の顔を見るかのように周囲に視線を張り巡らせた。
「間宮君、浦河君、それに押木君……。彼女が北村君を刺したら一斉に飛び掛かるぞ。どうやら彼女は自分のために私達まで殺してしまうつもりらしいから、遠慮する必要はない。彼女自身が言っているように、誰かを殺せばヒントが手に入るんだからな」
それはさすがに言い過ぎだ。押木がそう口を挟もうとする前に、宮澤は押木にだけ分かるようにウインクをしてみせた。中年のウインクは中々にきついものがあったが、それは宮澤に何等かの意図があることを示唆していた。
「戸田君、君に選択肢を与えよう。彼女を殺して私達に殺されるか、それとも彼女を解放して私達に従うか。聡明そうな君のことだ。どちらが賢明なのかは言わずとも分かるはずだ」
宮澤というキャラクターからは到底想像できぬ物騒な発言だった。だが、由紀子を盾に取られている以上、こうするより他に方法がないのかもしれない。
つまり、多勢に無勢ということだ。澪が由紀子を殺せば、押木、宮澤、亜由美、杏奈の四人が一斉に敵となる。なんだかんだで澪は女性なのだから、男手が含まれる四人を相手にするには明らかに不利だ。そして、宮澤はそんなつもりはないのだろうが、殺害をほのめかすようなことを口にすれば、彼女も従わざるを得なくなる。
「戸田君、今のところ私の中では君が一番の危険人物だ。ヒントのために他の人間を犠牲にしようとするのであればなおさらだ。ここで君が北村君を殺すのであれば、私達は君を殺さねばならない。できることなら、こんな不毛なことはしたくない。分かってくれ……。それに必ず私が犯人を見つけ出してみせる。だから、北村君を解放するんだ」
脅しているのか、それとも懇願しているのか区別のつかぬ宮澤の物言いに、澪は若干戸惑っているようだった。
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