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2.最初の犠牲者
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「……お前、男として最低だな」
仲沢が言わんとしていることを察した押木は、込み上げる嫌悪感を懸命にこらえながら、悪態をつくだけに留めた。
「だって、殺されるかもしれないんだぜ! もう、二度と女を抱けないかもしれないんだ! それに、犯人を指摘したところで、本当に俺達が解放されるかも分からない、だったら、死ぬ前に女を抱いておきてぇだろうがっ!」
ある意味正直で、ある意味よこしまな仲沢の言葉には、宮澤も小さく溜め息を漏らした。
つまり、仲沢はそれ目的で天井裏を利用しようとしたのである。
「それで、戸田の部屋に行ったわけか……」
そんな仲沢が、誰を標的にしたのかは訊くまでもなかった。おそらく、仲沢がそれを実行に移した時分、部屋に一人で篭っていたのは澪だけ。亜由美達はこれまで団体で行動をともにしており、仲沢の本能の贄になることはなかったはずなのだから。
「あぁ、他の女はあんた達と一緒に行動していたし、どうせなら一人でいる女のほうが犯りやすい。だから、俺はあの女……戸田の部屋に向かったんだ」
同じ男として軽蔑する。むろん、押木だって雄という生き物だから、女性に興味を抱かないことはないし、健全な一般男子同様の目で女性を見る。しかし、時と場合を選ぶというか、少なくともこのような状況で本能が先走るようなことはないし、それくらいの理性は持ち合わせているつもりだ。
にもかかわらず、仲沢は真っ先に本能へと突っ走り、天井裏を伝って澪の部屋に行ったというのだから笑えない。
けれども、それにしては澪も随分とあっけらかんとしていたような気がする。それを鑑みるに仲沢の思惑は未遂に終わった可能性が高かった。
「それで返り討ちにされたと……」
様々な意味で仲沢を同情すると同時に、同じ男として侮蔑する押木の言葉に、仲沢は小さく首を横に振った。
「いや、違うんだ。確かに俺はあの女を襲おうと考えた。実際に部屋の上まで行ったのも事実だ。でも、あいつは最初から俺が天井裏を伝って部屋に侵入することを知っていたみたいに、天蓋を開けて待っていたんだよ。浴槽のへりに座って、腕を組んで天井を見上げたままでな」
戸田を襲おうと考えた仲沢は、天井裏を伝って彼女の部屋に侵入を試みた。しかし、そこを待ち伏せされていたということなのであろうか。
「思わず固まったよ。あの顔に不気味な笑みを浮かべて、俺を見上げる、あの女の姿には……」
仲沢はそう呟くと、その時のことを思い出したのか小さく身震いをした。
「そして、天井裏で固まったままの俺に、あいつは手を組むことを強要したんだ。もし、俺が戸田を襲おうとしていたことがみんなにばれたら、俺の立場が悪くなる。最悪の場合、軟禁なんてことも有り得るだろうって……。それで、黙っていて欲しいなら誰かを殺せってよ。誰かが死ねば脱出の手掛かりのヒントが得られるし、上手くいったら望みどおりのことをしてやるって」
仲沢の独白……いや、内部告発に近い暴露は、澪という人間の恐ろしさを浮き彫りにするには充分すぎた。つまり、仲沢の一連の暴挙は戸田の指示の下で実行されたものだったのである。
「どうやら、彼女は思っている以上に喰えない人間のようだな」
ふとフロアのほうが気になったのだろう。宮澤が視線をフロアのほうに移した。それと時を同じくして、悲鳴のようなものが押木の鼓膜を揺さぶった。
仲沢が言わんとしていることを察した押木は、込み上げる嫌悪感を懸命にこらえながら、悪態をつくだけに留めた。
「だって、殺されるかもしれないんだぜ! もう、二度と女を抱けないかもしれないんだ! それに、犯人を指摘したところで、本当に俺達が解放されるかも分からない、だったら、死ぬ前に女を抱いておきてぇだろうがっ!」
ある意味正直で、ある意味よこしまな仲沢の言葉には、宮澤も小さく溜め息を漏らした。
つまり、仲沢はそれ目的で天井裏を利用しようとしたのである。
「それで、戸田の部屋に行ったわけか……」
そんな仲沢が、誰を標的にしたのかは訊くまでもなかった。おそらく、仲沢がそれを実行に移した時分、部屋に一人で篭っていたのは澪だけ。亜由美達はこれまで団体で行動をともにしており、仲沢の本能の贄になることはなかったはずなのだから。
「あぁ、他の女はあんた達と一緒に行動していたし、どうせなら一人でいる女のほうが犯りやすい。だから、俺はあの女……戸田の部屋に向かったんだ」
同じ男として軽蔑する。むろん、押木だって雄という生き物だから、女性に興味を抱かないことはないし、健全な一般男子同様の目で女性を見る。しかし、時と場合を選ぶというか、少なくともこのような状況で本能が先走るようなことはないし、それくらいの理性は持ち合わせているつもりだ。
にもかかわらず、仲沢は真っ先に本能へと突っ走り、天井裏を伝って澪の部屋に行ったというのだから笑えない。
けれども、それにしては澪も随分とあっけらかんとしていたような気がする。それを鑑みるに仲沢の思惑は未遂に終わった可能性が高かった。
「それで返り討ちにされたと……」
様々な意味で仲沢を同情すると同時に、同じ男として侮蔑する押木の言葉に、仲沢は小さく首を横に振った。
「いや、違うんだ。確かに俺はあの女を襲おうと考えた。実際に部屋の上まで行ったのも事実だ。でも、あいつは最初から俺が天井裏を伝って部屋に侵入することを知っていたみたいに、天蓋を開けて待っていたんだよ。浴槽のへりに座って、腕を組んで天井を見上げたままでな」
戸田を襲おうと考えた仲沢は、天井裏を伝って彼女の部屋に侵入を試みた。しかし、そこを待ち伏せされていたということなのであろうか。
「思わず固まったよ。あの顔に不気味な笑みを浮かべて、俺を見上げる、あの女の姿には……」
仲沢はそう呟くと、その時のことを思い出したのか小さく身震いをした。
「そして、天井裏で固まったままの俺に、あいつは手を組むことを強要したんだ。もし、俺が戸田を襲おうとしていたことがみんなにばれたら、俺の立場が悪くなる。最悪の場合、軟禁なんてことも有り得るだろうって……。それで、黙っていて欲しいなら誰かを殺せってよ。誰かが死ねば脱出の手掛かりのヒントが得られるし、上手くいったら望みどおりのことをしてやるって」
仲沢の独白……いや、内部告発に近い暴露は、澪という人間の恐ろしさを浮き彫りにするには充分すぎた。つまり、仲沢の一連の暴挙は戸田の指示の下で実行されたものだったのである。
「どうやら、彼女は思っている以上に喰えない人間のようだな」
ふとフロアのほうが気になったのだろう。宮澤が視線をフロアのほうに移した。それと時を同じくして、悲鳴のようなものが押木の鼓膜を揺さぶった。
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