黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作

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2.最初の犠牲者

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「それは俺が知りたいよ。いきなり仲沢がユニットバスから飛び出してきたんだからさ」

 まだ興奮冷めやらぬ頭で整理して、辛うじて先ほどの状況を言葉にする押木。宮澤が押木の視線の先へと目をやると、争う音を聞いたのか亜由美と杏奈も部屋に駆け付けていた。

「あの……何があったの?」

 亜由美は部屋の有様を見て目を丸くし、杏奈はごくりと唾を飲み込む。仲沢は気を失い、押木は満身創痍。この状況を見て、それを詮索しない人間などいないであろう。

「押木君が彼に襲われたらしい。とにかく、詳しい話は……」

 宮澤が押木の代弁をし、仲沢の方へと視線を移した時のことだった。

 例の耳障りな上に、不愉快極まりない声がフロアのほうから聞こえてきた。

『さぁ、共同生活が始まってから数時間が経過。みなさん、いかがお過ごしでしょうか?』

 ここで目覚めた直後に聞いた、どこか人を馬鹿にしているような鼻につく口調。この非日常的な空間には似つかわぬ調子づいた喋り方。

 その場にいた一同が顔を見合わせ、照らし合わせたかのようにフロアのほうへと足を運ぶ。

 ただ、仲沢がいつ目覚めるか分からない上に、押木がすぐに動けないことを察してくれたのか、宮澤だけが部屋に残ってくれた。件の声は部屋にいても充分なくらい聞こえるから問題ないと判断したのかもしれない。

『それはそうと、皆さん共同生活を楽しんでおられますでしょうか? こちらから見ている限りでは、男女の恋愛沙汰には発展していない模様。こんな時、人間は本能の赴くままに動くもんだと思っていましたが、どうやら違うようですね。あ、女性陣のみなさま、大変素晴らしいものを拝見させていただいてありがとうございました。間宮さんって、結構着やせするタイプなんですねぇ。ただし浦河、テメーは別だ、痩せろ。とんでもねぇもん見せやがって』

 直後に杏奈の怒号に近い喚き声が飛んできた。部屋を含めて、この空間は監視下にある。よって、亜由美達の身体検査もしっかりと監視されていたのだろう。

 ふと、してはいけない妄想をしてしまい、少しばかり頬を染める押木。そんな場合ではないのは百も承知なだけに情けない。

『あ、一応弁解させてもらいますけど、監視カメラが設置されているのは各部屋とはだけです。ユニットバス内まではさずがに監視しませんので、今度身体検査をする時にはユニットバスをお使い下さい。まぁ、もう遅いんですけどね』

 そして、また不愉快なジングル。スタッフらしき人物の低俗な笑い声がフロアから聞こえてきた。

 監視されているのは、各部屋とフロアだけ……。つまり、こうしてベットの上から動けない姿も、監視されている。そして、押木が仲沢の奇襲を受けた場面も監視されていたことになる。

 分かり切っていることではあるが、どこの誰かも知らない人間に一部始終を監視されていると思うと不気味でならない。
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