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2.最初の犠牲者
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カップを片手にベットへと腰をかけると、コーヒーを一口。以前、これと同じ香りがしたのは、恩田教授の研究室を訪れた時のことだ。きっと、つい最近のことなのであろうが、妙にそれが懐かしく思えた。
立ち上る湯気の向こうに見える、のっぺりとしていて冷たい灰色の壁。それを漠然とながめること一時。ふと、ユニットバスの中から微かに音がしたような気がした。
ユニットバスはフロアとは正反対……部屋の奥まったところに設置されている。少なくともフロアにいる人間が立てた音ではないだろう。
自分で思っている以上に疲れているのだろう。押木がそう結論づけてコーヒーを再び口に含んだ時、今度はドサリという音が、確かにユニットバスの中から聞こえてきた。
何かが起きている。ひとつの扉を隔てたユニットバスの中で、確かに何かが起きている。
宮澤と由紀子はフロアにいるし、他の人間はそれぞれの部屋にいるはず。にもかかわらず、ユニットバスの中から人の気配らしきものがする。
当然ながら、ここに来るまではフロアにいたのだから、誰かが先に部屋に入り込んでいるなんてことは有り得ない。
押木はユニットバスへと続く扉に視線を留めつつ、ゆっくりと立ち上がる。そろりそろりとユニットバスの扉へと近づくと、またしても何者かが動くような音がした。
ごくりと唾を飲み込み、とりあえず出したままにしておいたインスタントコーヒーの瓶を手に取る。ユニットバスの中で何が起きているかは分からないが、丸腰で扉に近付けるような状況ではなかったのだ。
ここに集められた人間の中に犯人がいて、その犯人は他の人間を殺そうとする。ならば、もしかすると殺しに来たのかもしれない。しかし、だとすれば一体誰が……。
警戒しながら一歩ずつ前に踏み出す押木、心臓は早鐘を打ち、コーヒーで潤したはずの喉は妙に渇いていた。
押木が扉に手をかけようとした時のことである。まだ扉に手を伸ばしている最中だったにもかかわらず、扉がユニットバス側から勢いよく開かれた。
もちろん、警戒はしていた。どうやって侵入してきたのかは分からないが、もしかするとユニットバスに人が潜んでいるかもしれない。しかも、それはおそらく犯人であると……。
しかし、まさか安易に扉から飛び出すような真似をするとは思っていなかった押木は、ほんのわずかだが動きを止めてしまった。
そこへすかさず影が覆い被り、押木はあっけなく床へとねじ伏せられた。
押木に身体に馬乗りになった影から二本の手が伸び、押木の首筋を抑えつける。
「ど……どうしてあんたが?」
蛍光灯の光が逆光となり、その影は文字通り暗くて誰だか分らない。しかし、その特徴的な髪の色だけは、逆光の輪の中に浮かび上がったのだった。
「そんなのお前に話すわけねぇじゃんかよ。ここでお前は死ぬんだからな」
首に掛けられた手に力が込められた。それをなんとか引きはがそうと、懸命に抵抗する押木。
「仲沢……。まさかあんたが?」
そう、押木に馬乗りになって首を絞め続ける影の正体は、紛れもなく仲沢だったのである。
「言っとくけど、俺は犯人なんてもんじゃねぇよ。でも、人が死ねば犯人のヒントがもらえんだろ? だから、死んでくれよ。俺はこんなところで死にたくねぇんだ。俺のために死んでくれよ!」
立ち上る湯気の向こうに見える、のっぺりとしていて冷たい灰色の壁。それを漠然とながめること一時。ふと、ユニットバスの中から微かに音がしたような気がした。
ユニットバスはフロアとは正反対……部屋の奥まったところに設置されている。少なくともフロアにいる人間が立てた音ではないだろう。
自分で思っている以上に疲れているのだろう。押木がそう結論づけてコーヒーを再び口に含んだ時、今度はドサリという音が、確かにユニットバスの中から聞こえてきた。
何かが起きている。ひとつの扉を隔てたユニットバスの中で、確かに何かが起きている。
宮澤と由紀子はフロアにいるし、他の人間はそれぞれの部屋にいるはず。にもかかわらず、ユニットバスの中から人の気配らしきものがする。
当然ながら、ここに来るまではフロアにいたのだから、誰かが先に部屋に入り込んでいるなんてことは有り得ない。
押木はユニットバスへと続く扉に視線を留めつつ、ゆっくりと立ち上がる。そろりそろりとユニットバスの扉へと近づくと、またしても何者かが動くような音がした。
ごくりと唾を飲み込み、とりあえず出したままにしておいたインスタントコーヒーの瓶を手に取る。ユニットバスの中で何が起きているかは分からないが、丸腰で扉に近付けるような状況ではなかったのだ。
ここに集められた人間の中に犯人がいて、その犯人は他の人間を殺そうとする。ならば、もしかすると殺しに来たのかもしれない。しかし、だとすれば一体誰が……。
警戒しながら一歩ずつ前に踏み出す押木、心臓は早鐘を打ち、コーヒーで潤したはずの喉は妙に渇いていた。
押木が扉に手をかけようとした時のことである。まだ扉に手を伸ばしている最中だったにもかかわらず、扉がユニットバス側から勢いよく開かれた。
もちろん、警戒はしていた。どうやって侵入してきたのかは分からないが、もしかするとユニットバスに人が潜んでいるかもしれない。しかも、それはおそらく犯人であると……。
しかし、まさか安易に扉から飛び出すような真似をするとは思っていなかった押木は、ほんのわずかだが動きを止めてしまった。
そこへすかさず影が覆い被り、押木はあっけなく床へとねじ伏せられた。
押木に身体に馬乗りになった影から二本の手が伸び、押木の首筋を抑えつける。
「ど……どうしてあんたが?」
蛍光灯の光が逆光となり、その影は文字通り暗くて誰だか分らない。しかし、その特徴的な髪の色だけは、逆光の輪の中に浮かび上がったのだった。
「そんなのお前に話すわけねぇじゃんかよ。ここでお前は死ぬんだからな」
首に掛けられた手に力が込められた。それをなんとか引きはがそうと、懸命に抵抗する押木。
「仲沢……。まさかあんたが?」
そう、押木に馬乗りになって首を絞め続ける影の正体は、紛れもなく仲沢だったのである。
「言っとくけど、俺は犯人なんてもんじゃねぇよ。でも、人が死ねば犯人のヒントがもらえんだろ? だから、死んでくれよ。俺はこんなところで死にたくねぇんだ。俺のために死んでくれよ!」
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