黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作

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2.最初の犠牲者

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 そこに折衷案を持ち込んだのは由紀子だった。そもそも押木と宮澤が交代で休もうとするのは、有事の際に動ける男手を確保しておくためだ。仲沢があんな調子である以上、動ける男は押木、宮澤、近藤の三人。何かがあった時のために、せめて二人は起きているようにしなければならないと思うのは、自然なことであろう。

 そして、男手を多く残しながら、しかし効率的に休息をとるのであれば、由紀子の提案したやり方が妥当だった。

「あぁ、それならばリスクを抑えつつ、効率的に休息をとることができるな。私は賛成だが、他の人達はどうだろうか? 異論がないようなら採用したいんだが」

 宮澤と押木の言い分を、上手い具合に取り入れた提案に、異論を唱える者などいなかった。

「よし、決まりだな。それでは、先に押木君と間宮君が先に休んでくれ。私と北村君がフロアに残り、三時間経過したら交代。時計の類は部屋にあったはずだから、交代の時間になった際に知らせてくれ。まぁ、時計と言っても残り時間を刻むタタイマーのようだったが」

 宮澤の言葉に、部屋で見つけたタイマーのことを思い出す押木。ベットのヘッドテーブルの上に置かれ、ぱっと見た感じでは目覚まし時計のようにしか見えないデジタル式のタイマーだった。ただ、セグメントで表示されている時刻は分刻みで時間が減っていくというもので、時間を記す場所には【46】と記されていたため、それが残り時間を刻むタイマーであることは容易に理解することができたのだった。

 恐らく、二人でフロアに残るにしても、女子高生と一緒というのは宮澤も気まずかったのであろう。結果、押木と亜由美を先に休ませ、由紀子をフロアに残すことにしたのだと思われる。

「それじゃあ、とりあえずその流れで動くとしようか。間宮さん、お言葉に甘えて俺達も休もう」

 押木は宮澤とアイコンタクトをとって頷くと、明らかに顔色が優れない亜由美のほうへと視線を移した。亜由美はいまだに怯えている様子で、押木の言葉にほんの少しだけ頷いただけであった。

 こうして、宮澤と由紀子をフロアに残し、押木と亜由美はそれぞれの部屋へと戻ることになった。

 自分のプレートがかけられた扉を開け、念のために施錠をしてからベットに転がり込んでみる。そして、大の字になって天井を呆然と眺める押木、

 どうしてこんなことになったのか。どうして自分でなければならないのか。冷たいコンクリートの天井で瞬く蛍光灯は、もちろんそれに答えてはくれなかった。

 体は倦怠感にも似た疲れを感じているのに、いざ横になっても眠れなかった。休息を求めているはずの体はずっしりと重いし、確かに眠気はあるのだが眠れない。こんな感覚は。小学校の遠足前日以来だった。

 何度も寝返りを打ち、この理不尽な現実からの逃走を図ってみるが、眠くなるどころか目が冴える一方。結局、まだ一時間と経たぬうちに、押木はあきらめて起き上がる。

 食料品が保管されている棚からインスタントコーヒーを取り出し、コンロで湯を沸かしてカップに注ぐ。眠れないのであれば、いっそのこと寝なければいいと考えたすえのことだった。
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