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2.最初の犠牲者
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「こっちもいませんでしたよ。まぁ、ある意味お二人のボディーは殿方にとっては充分な凶器になるかもしれませんが」
杏奈の緊張感ゼロの発言に、亜由美と由紀子は頬をかすかに染めてうつむいた。こんな状況で冗談を言えるのはたくましいのかもしれないが、こちらが返答に困るような冗談はやめて欲しい。
「そうか、これでとりあえず暫定的に犯人の可能性が薄い人間が絞れたわけだ」
しかし、宮澤は杏奈の発言の意図などお構いなしに、その事実だけを受け止めて状況の整理を始めた。
「身体検査を行った人間だけに限って言えば、とりあえず凶器を所持している人間はいないということになる。まぁ、これだけで断定するわけにもいかないが、少なくとも部屋に引きこもっている二人に比べると、私達は白に近いということだ。特に、女性が素手で殺人を行えるとは思っていないから、女性陣は男性陣よりも白に限りなく近いと言ってもいいだろう」
「それが分かったのはいいとして、これからどうするんですか? 私、お腹が空いたんですけど」
宮澤の言葉に一同が耳を傾ける中、一人だけ我が道を突き進む杏奈は、なんと空腹を訴え出した。
今はそれどころではないだろうに……。そう言ってやろうと思った押木だったが、杏奈の言葉を聞いた途端、ふいに腹の虫が鳴いてしまった。これでは、言い出すに言い出せない。
ここで目を覚ますまでに、どれだけの時間が空いているのかは分からないが、随分と食事をしていないような気がする。これまでは非日常的なことに緊張してばかりだったせいか、空腹……人の本能である食を忘れてしまっていたのかもしれない。もしくは、とりあえず凶器を所持している人間がいないことが分かって、緊張感がほぐれたのかもしれなかった。
「そういやぁ、腹が減ったな。ここに放り込まれてどれだけ時間が経っているのかは分からないけど、腹時計ってのは正確みたいだな。どうだ? 今後どうするかは後回しにして、とりあえず飯にしようや」
体が栄養を欲しているのは、どうやら押木と杏奈だけではなかったらしい。近藤が便乗するかのように提案し、亜由美と由紀子もまんざらではなさそうに顔を見合わせて頷く。
「それでは、そうすることにするか。今後のことは食べながら決めればいい。もしかすると食べられる内に食べておいたほうがいいかもしれないし」
それを見た宮澤も食事の提案を受け入れ、自然とフロアに集まって全員で食事をする流れとなった。例の二人を誘う口実になると思ったが――とは食事中の宮澤の言葉だ。
しかし、これにも二人は全く反応を見せず、仲沢と澪を除く六人が食卓を囲むこととなったのであった。もっとも、食卓なんて贅沢な調度品はなかったが。
せっかくだから、みんなで同じものを食ようと提案したのは由紀子で、暖めるだけで食べられるパックのご飯と、サバ缶がそれぞれの部屋から持ち出された。食事としては貧相なものであったが、悔しいことに美味かった。
食事をしながら今後のことを話し合ったが、結論など出るわけがなかった。自己防衛策として、できる限り一人で行動しないようにする。今後の方針として打ち出されたのは、この程度のものしかなかったのだった。
杏奈の緊張感ゼロの発言に、亜由美と由紀子は頬をかすかに染めてうつむいた。こんな状況で冗談を言えるのはたくましいのかもしれないが、こちらが返答に困るような冗談はやめて欲しい。
「そうか、これでとりあえず暫定的に犯人の可能性が薄い人間が絞れたわけだ」
しかし、宮澤は杏奈の発言の意図などお構いなしに、その事実だけを受け止めて状況の整理を始めた。
「身体検査を行った人間だけに限って言えば、とりあえず凶器を所持している人間はいないということになる。まぁ、これだけで断定するわけにもいかないが、少なくとも部屋に引きこもっている二人に比べると、私達は白に近いということだ。特に、女性が素手で殺人を行えるとは思っていないから、女性陣は男性陣よりも白に限りなく近いと言ってもいいだろう」
「それが分かったのはいいとして、これからどうするんですか? 私、お腹が空いたんですけど」
宮澤の言葉に一同が耳を傾ける中、一人だけ我が道を突き進む杏奈は、なんと空腹を訴え出した。
今はそれどころではないだろうに……。そう言ってやろうと思った押木だったが、杏奈の言葉を聞いた途端、ふいに腹の虫が鳴いてしまった。これでは、言い出すに言い出せない。
ここで目を覚ますまでに、どれだけの時間が空いているのかは分からないが、随分と食事をしていないような気がする。これまでは非日常的なことに緊張してばかりだったせいか、空腹……人の本能である食を忘れてしまっていたのかもしれない。もしくは、とりあえず凶器を所持している人間がいないことが分かって、緊張感がほぐれたのかもしれなかった。
「そういやぁ、腹が減ったな。ここに放り込まれてどれだけ時間が経っているのかは分からないけど、腹時計ってのは正確みたいだな。どうだ? 今後どうするかは後回しにして、とりあえず飯にしようや」
体が栄養を欲しているのは、どうやら押木と杏奈だけではなかったらしい。近藤が便乗するかのように提案し、亜由美と由紀子もまんざらではなさそうに顔を見合わせて頷く。
「それでは、そうすることにするか。今後のことは食べながら決めればいい。もしかすると食べられる内に食べておいたほうがいいかもしれないし」
それを見た宮澤も食事の提案を受け入れ、自然とフロアに集まって全員で食事をする流れとなった。例の二人を誘う口実になると思ったが――とは食事中の宮澤の言葉だ。
しかし、これにも二人は全く反応を見せず、仲沢と澪を除く六人が食卓を囲むこととなったのであった。もっとも、食卓なんて贅沢な調度品はなかったが。
せっかくだから、みんなで同じものを食ようと提案したのは由紀子で、暖めるだけで食べられるパックのご飯と、サバ缶がそれぞれの部屋から持ち出された。食事としては貧相なものであったが、悔しいことに美味かった。
食事をしながら今後のことを話し合ったが、結論など出るわけがなかった。自己防衛策として、できる限り一人で行動しないようにする。今後の方針として打ち出されたのは、この程度のものしかなかったのだった。
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