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2.最初の犠牲者

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 それとなく押木が宮澤に同意すると、近藤が面白くなさそうに顔を背けた。

「まぁ、俺は頭が悪いから良く分からねぇが、あんたらがそう言うんだったらそうなんだろうな」

 その言葉に近藤の卑屈な部分を見たような気がしたが、どうやらおおむね納得はしてくれているようだった。この中では最年長者のようだし、単純に年下の人間に意見を否定されてしまったように感じて面白くないだけなのであろう。

「とにかく、私達は目覚めてからいままでともに行動をしていた。よって凶器を隠す余裕はなかったはずだ。私を除いた押木君と近藤さんは犯人ではないと推定しておいてもいいだろう」

「ちょっと待ちな。あんただって俺達と一緒だったろ? なら、あんただって犯人じゃないと考えていいんじゃないか?」

 宮澤の歯切れの悪い言葉に、近藤がすぐさま口を挟む。それに対して、宮澤は苦笑いを浮かべて首を横に振った。

「いや、私はみんなが起きるより先に目覚め、自分に割り当てられた部屋を確認している。私の身が潔白だと言い張るのは簡単だが、実際にみんなより先に部屋に入っているんだ。そこで凶器を隠していないという証拠でもなければ、私が犯人ではないと主張することはできないだろう」

 押木は、その言葉に小さく唸りながらも納得せざるを得なかった。そう、確かに宮澤には凶器を隠す時間があったのである。

 宮澤は一同より一足先に目覚め、自分の部屋を確認に向かっている、そこから出てきたところで遅れて目覚めた押木達と遭遇したわけだ。よって、その時に凶器を部屋の中に隠したと可能性があった。

 一方、押木と近藤にかんしては、目覚めてから身体検査を行うまでフロアから離れることがなかった。つまり、凶器を隠す時間が物理的にないわけであり、身体検査でなにも出てこなかった今、とりあえずは白であるということになるのだ。

「それを自分で言うような奴が犯人だとは思えないけどな」

 自らに犯人の可能性があると言ってしまった宮澤に対して、押木は率直に思ったことを口にした。もし宮澤が犯人ならば、わざわざそれを公言する必要などない。

「それを見越して……と言うこともあるんじゃないか?」

 押木の言葉が宮澤をフォローするかのように聞こえたのであろう。宮澤は苦笑いを浮かべながら返す。

 ここに集められた人間の中には、それこそ癖のありそうな人間も混じってはいるものの、街中で見掛ける程度の一般人だ。人殺しができそうな人間がいるとは思えないし、いるとも考えたくない。けれども、宮澤の自虐的な反論に、押木は言葉をかけてやることができなかった。

「とにかく、論拠は薄いものだが、これで犯人の可能性が低い人間を割り出すことはできるだろう。男性陣ならば、押木君と近藤さんの方が私より犯人の可能性が低いといった具合にね……。女性陣の身体検査でなにもでてこなければ、とりあえず女性陣の大半も犯人の可能性が薄くなるということだ。幸いなことに犠牲者はまだ出ていないが、この段階で犯人を絞り込むことは無理だし、状況的な証拠を集めても決定的な証拠には遠く及ばないだろう」

 押木は胸の奥に込み上げて来た得体の知れぬ感情に苛立ちを覚える。これが不安感と呼ばれるものであることは分かっていたが、日常で感じるそれよりもはるかに度合いが大きなものであり、だからこそ得体のしれないものと認識する他になかったのである。
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