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2.最初の犠牲者
2.最初の犠牲者 1
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【1】
「若い姉ちゃんの身体検査なら喜んでするが、やっぱり男同士ってのは気持ち悪ぃや……」
近藤が上着のボタンを留めながら愚痴る。それに同意を示すかのごとく、押木は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「仕方あるまい。だが、これで少なくとも我々が凶器になり得るものを持っていないことが明らかになった。そう考えれば、身体検査の意義は大きかったと思うが」
女性陣と別れた後、押木達は宮澤に割り振られた部屋へと集まって身体検査を行う運びとなった。一応、仲沢にも声をかけたのであるが、扉の向こうから返ってきたのは舌打ちだけ。結局、押木と宮澤、そして近藤の三人で身体検査を行ったのだった。
個人に割り振られた部屋は狭く、その中に三人の男が集まったのだから暑苦しくて仕方がない。そんな中で互いの身体検査を行ったのだから、近藤が愚痴を漏らす気持ちも分からんではなかった。
多分、女性陣もひとつの部屋に集まって身体検査を行っているのだろうが、戸田が表に出てきた様子はない。仲沢と同じくだんまりを決め込んだようである。
宮澤と近藤が妙なものを持っているようなことはなかった。むろん、押木自身も凶器になるようなものは所持しておらず、無事に身の潔白を証明することができたのだった。
「そうなると、あの二人がやっぱり怪しいってことになるな。姉ちゃん達にも訊いてみないことにはなんとも言えないが、あの二人が揃って身体検査を拒否したとなれば、あいつらが一番怪しくなる」
近藤は使い込まれたキャップを被りながら、簡易式のベッドに腰をかけた。各々に割り当てられた部屋は四畳一間に、ユニットバス付きの簡素なもの。一応、調理をするためにコンロが設置されているが、その脇に置いてある棚のなかにはインスタント食品しか入っていない。
「いや、それはどうだろうか。もし、彼等のどちらかが犯人ならば、むしろ身体検査を拒否しないと思うんだが……。もし、凶器を所持していたとしても、二人は一度部屋に戻っている。そして部屋を見渡した限り、凶器を隠す場所ならいくらでもあるように思える。事前に凶器を隠して身体検査に応じたほうが、疑われる可能性は低いと考えるのが自然じゃないだろうか?」
その棚の中を硝子戸越しに物色しながら、押木は相槌を打った。このような状況で身体検査を拒否することは、不信感を与えるだけで犯人にメリットはないように思える。犯人の大抵は探偵役に協力的だったり、友好的だったりするものだ。あまりミステリに興味のない押木の見解に過ぎないが、宮澤の言葉はもっともであるような気がした。
部屋をざっと見渡しただけでも、凶器の隠し場所など腐るほどある。曇り硝子の引き戸を隔てたユニットバスなど絶好の隠し場所であるし、棚の中に並ぶインスタント食品に紛れ込ませてもいい。もし自分ならばそうする……と押木は思う。
それにもかかわらず、身体検査を真っ向から拒否して部屋に閉じこもるなど、自分を疑って下さいと言っているようなものだ。周りに警戒心を与えれば与えるほど、殺人を犯すことが難しくなるであろうことは間違いない。
「俺だったら身体検査を受けるな。ここで下手に警戒心を与えてしまうと殺人がやりにくい。どうせやるなら、周りから信頼を得ていたほうが動きやすいと思う」
「若い姉ちゃんの身体検査なら喜んでするが、やっぱり男同士ってのは気持ち悪ぃや……」
近藤が上着のボタンを留めながら愚痴る。それに同意を示すかのごとく、押木は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「仕方あるまい。だが、これで少なくとも我々が凶器になり得るものを持っていないことが明らかになった。そう考えれば、身体検査の意義は大きかったと思うが」
女性陣と別れた後、押木達は宮澤に割り振られた部屋へと集まって身体検査を行う運びとなった。一応、仲沢にも声をかけたのであるが、扉の向こうから返ってきたのは舌打ちだけ。結局、押木と宮澤、そして近藤の三人で身体検査を行ったのだった。
個人に割り振られた部屋は狭く、その中に三人の男が集まったのだから暑苦しくて仕方がない。そんな中で互いの身体検査を行ったのだから、近藤が愚痴を漏らす気持ちも分からんではなかった。
多分、女性陣もひとつの部屋に集まって身体検査を行っているのだろうが、戸田が表に出てきた様子はない。仲沢と同じくだんまりを決め込んだようである。
宮澤と近藤が妙なものを持っているようなことはなかった。むろん、押木自身も凶器になるようなものは所持しておらず、無事に身の潔白を証明することができたのだった。
「そうなると、あの二人がやっぱり怪しいってことになるな。姉ちゃん達にも訊いてみないことにはなんとも言えないが、あの二人が揃って身体検査を拒否したとなれば、あいつらが一番怪しくなる」
近藤は使い込まれたキャップを被りながら、簡易式のベッドに腰をかけた。各々に割り当てられた部屋は四畳一間に、ユニットバス付きの簡素なもの。一応、調理をするためにコンロが設置されているが、その脇に置いてある棚のなかにはインスタント食品しか入っていない。
「いや、それはどうだろうか。もし、彼等のどちらかが犯人ならば、むしろ身体検査を拒否しないと思うんだが……。もし、凶器を所持していたとしても、二人は一度部屋に戻っている。そして部屋を見渡した限り、凶器を隠す場所ならいくらでもあるように思える。事前に凶器を隠して身体検査に応じたほうが、疑われる可能性は低いと考えるのが自然じゃないだろうか?」
その棚の中を硝子戸越しに物色しながら、押木は相槌を打った。このような状況で身体検査を拒否することは、不信感を与えるだけで犯人にメリットはないように思える。犯人の大抵は探偵役に協力的だったり、友好的だったりするものだ。あまりミステリに興味のない押木の見解に過ぎないが、宮澤の言葉はもっともであるような気がした。
部屋をざっと見渡しただけでも、凶器の隠し場所など腐るほどある。曇り硝子の引き戸を隔てたユニットバスなど絶好の隠し場所であるし、棚の中に並ぶインスタント食品に紛れ込ませてもいい。もし自分ならばそうする……と押木は思う。
それにもかかわらず、身体検査を真っ向から拒否して部屋に閉じこもるなど、自分を疑って下さいと言っているようなものだ。周りに警戒心を与えれば与えるほど、殺人を犯すことが難しくなるであろうことは間違いない。
「俺だったら身体検査を受けるな。ここで下手に警戒心を与えてしまうと殺人がやりにくい。どうせやるなら、周りから信頼を得ていたほうが動きやすいと思う」
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