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1.箱

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 押木が箱を受け取ると、理恵はわざわざ研究室の外まで見送ってくれた。それに後ろ髪を引かれるような、なんともいえぬ寂しさを感じた押木だったが、理恵に頭を下げると廊下を歩き出した。

 恩田教授のお遣いも完了し、これで出席日数もなんとかなりそうだ。それに加えて、ほんの少しの時間だったが綺麗な女性とお茶をともにできた。こんなお遣いならば、いくらでも引き受けてやっても構わない。むしろ、なにかと口実をつけて、またここにこれたら……などとさえ考えてしまう。

 階段をのぼり、無人のホールを通り抜けて外へと出た。外は日差しが強く、薄ら暗い地階にいたせいか、妙に太陽の光が眩しいように感じる。

 押木は車のキーが付いたキーホルダーを取り出すと、リングを指にはめ、それを上機嫌にくるくると回す。車へと戻ると、鍵を開けて理恵から手渡された荷物を助手席へと放り投げた。どうせ中身はコーヒーセットかなにであろう。そんな考えが押木に軽率な行動を取らせたのだった。その軽率な行動が仇となる。

 急に耳障りな……例えるならば防犯ブザーのようなけたたましい警告音のようなものが、車内に鳴り響いた。それこそ、駐車場全体にまで広がってしまうくらいの大きな音が。

 慌てて辺りを見回してみるが、付近に停まっている車は押木の車だけであり、どう考えても音の発信源は車中にあるようだった。それが、つい今しがた放り投げた箱であることに気づくのに、さほど時間はかからなかった。

 悪いことをしたわけでもないのに、駐車場一帯に鳴り響く不快な警告音。まるで誰かに助けを求めるかのように、そして周りに押木の存在を報せているかのごとく……。それが鳴り止む気配がないのだからタチが悪い。

「ちょっと、なんなんだよ。これ?」

 とりあえず警告音が周囲に少しでも漏れぬように、車に乗り込んでドアを閉めた押木は、てっきりコーヒーセットだとばかり思っていた箱を手に取った。恩田教授宛てであることなど忘れて、乱暴に包装紙を剥がす。

 裸になった箱を開ける。警告音はいまだに鳴り止まない。箱の中から押木が取り出したのは、一回り小さい鉄製の……これまた箱だった。しかし、その箱の上部にはデジタルのタイマーが表示されており、数字はカウントダウンをしているようだった。
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