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【1】

 昼下がりの日差しが講堂へと降り注ぎ、食後ということもあってか眠気を誘う。

 三社国際大学、西棟第三講義室。講義室は教授が鞭を振るう教壇を中心に扇状となるように受講席が設けられおり、その一番後ろの最も目立たないと思われる席で、彼……押木はうたた寝をしていた。

 正直、専門的に学びたい分野があるから大学進学したわけではない押木にとって、大学の講義ほど無駄でつまらないものはなかった。ただ、周りが大学に進学するから、まだ就職はせずに親の脛をかじって遊んでいたいから……。そんな周りの流れに合わせて惰性で大学生をやっていたのであった。

 そんな態度で大学生活と向き合っていたのが悪かったのか、今年で押木はめでたく大学五年生。大学生活の延長戦を余儀なくされていた。もっとも、本人に危機感などは皆無であり、やはり惰性で大学に通っているのであるが。

 大学など、少しでも格好のつく学歴なるものを手に入れる場所に過ぎず、勉学に励む場所ではない。むしろ、世渡りを学ぶ場である――とは、大学五年生となった押木の格言である。

 そもそも、頭が良いというのと勉強ができるというのは全く別の話。勉強ができるからといって頭が良いとは限らないし、頭が良いからといって勉強ができるわけではない。

 いつからなのかは分からないが、日本人は勉強ができることと、頭が良いということを勝手に紐付けするようになった。それは学歴社会が全面的に押し出された日本社会に原因があると押木は考えている。

 勉強ができても仕事はできない人間もいれば、勉強はからっきしだが仕事はバリバリできる人間もいる。にもかかわらず、人材の選別基準が学歴になっているのもおかしな話だ。これも、留年した自分をごまかすための言いわけだった。

 しかし、言いわけにしては的を射ていた。基本的に斜に構えて世の中を見るひねくれ者であるが、目の付け所が完全に間違っているわけでもない。それが押木という大学生の性質であった。

 今日も今日とて興味のない講義を受け、アルバイトをしては一日が過ぎて行く。

 仲の良かった同期生はさっさと卒業をしてしまい、実質的に一学年下の人間と一緒に受ける講義は面白くもなんともない。年齢などという実に下らないものにこだわっているせいか、友人と呼べる友人は大学にいなかった。

 友人なら大学の外にいくらでもいるし、わざわざ単位を取りに来るだけの大学に友人を作る必要性などなかった。もっとも、協調性がないわけではない押木は、隣の席の奴に声を掛けられれば返事をするし、ゼミ絡みのコンパに誘われれば嫌々ながら参加する。

 基本的に周りには干渉したくないし、されたくもない。ただ、敵を作るのも面倒だから適当に周りに合せて立場を確保するだけ。大学という小さな世界は、押木にとってはどうでも良い世界になっていたのかもしれない。

「さて、ここで俺の話ばかり聞いててもつまらんだろうから、君達にあるクイズを出すとしようか」

 教鞭を振るっている恩田教授が、話の切り替わりに手をパンと叩いたものだから、夢現の心地であった押木も驚いて顔を上げてしまった。

 恩田義輝おんだよしてる教授……。

 ぼさぼさの髪と、もみあげから顎にかけて生やしている髭。しかし不潔な印象はなく、教授とは思えぬ砕けた性格のせいか、女子受講生の中にもファンが相当数いるらしい。
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