黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
19 / 94
プロローグ

19

しおりを挟む
「とにかく、調べてみようぜ。いざとなったら扉のひとつやふたつぶち破ってやらぁ」

 相変わらず短絡的、気の短そうな近藤は、押木達の視界の先へと向かって歩き出す。いかにも職人気質といった感じだが、その姿は接客業というよりも建設業という方がしっくりくるような気がした。まぁ、魚屋と言われれば納得できないでもないのであるが。

「階段は狭いから、全員でぞろぞろと調べに行くのも窮屈でたまらんし、女性諸君にも不快な思いをさせてしまうだろう。調べに行くのは私と……確か押木君だったか、それと近藤さんの三人にしよう。女性陣はここで待っていて欲しい。その間に……」

 近藤の名はしっかりと覚えているのに、自分の名前だけ曖昧に覚えられている。それがなんだか近藤よりも信頼されていないようで寂しかった。しかし、そんなことを口には出せずにいる押木をよそに、宮澤は女性陣に向かってこう続けた。

「私達が出口を調べている間に、互いの身体検査をしておいて欲しいんだ。フロアで行うのが嫌ならば、誰かの個室でも構わない。少なくとも、私のような中年のおじさんに身体検査をされるよりはいいだろう?」

 宮澤の言葉に女性陣は顔を見合わせ、浦河にいたっては胸に両手を当てて顔を赤らめる。

「え? し、身体検査ですか……。しかも女の子同士で? もしかして、そこから百合展開なんてことを考えてるんじゃないでしょうね!」

 どうやらとんでもない勘違い……いや、展開を思い描いているのであろうが、宮澤はそれを聞き流すと大きく頷いた。

「あぁ、さすがに男性が女性の身体をまさぐるわけにもいくまい。本当なら、あの戸田とかいう女性も調べて欲しいが、それは現状では無理と判断するしかないだろうな。とにかく、互いに身体検査をして欲しいんだ。誰かが凶器になり得るものを持っていないのかをな……。ルール通りに共同生活が送られるのならば、犯人は必ず我々を殺害するための道具を所持していなければならない。まぁ、世の中には素手で人を殺せるような猛者もいるようだが、少なくともここに集められた人間の中にそんな芸当ができる人間がいるとは思えない」

 宮澤が提案した身体検査の意図に納得した押木は、無意識に大きく頷いてしまう。犯人たる人間がいて、この共同生活が事前に仕組まれているものだったとしたら、犯人も事前に準備をしているはずである。

 その中でも外せないのは、殺害に使用する凶器だといえよう。

 むろん、凶器がなくとも首を絞めるなりして殺害することも可能だろうが、それができる人間は限られている。女性が男性にそのような殺害方法を用いるとは思えないし、力のある男性だとしても、相手が男性なら返り討ちにされる恐れがある。

 しかも、正しい犯人を指摘することが脱出の条件である以上、犯人は殺害現場を他の者に目撃されてはならない。そんな状況で、果たして凶器なしで人殺しをしようなんて考える人間がいるだろうか。

 もし、自分が犯人ならば、事前に凶器を用意しているに違いない。押木は何度も頷きながら、女性陣の反応を見守る。

「つまり、凶器を所持していない人物は限りなく白に近くなる。非力な女性が犯人ならば、必ず凶器を用意しているはずだからな。おっと、別に女性差別をしているわけではない。ただ、身体検査をして凶器が見つからなければ、貴方達女性陣の疑いは晴れたようなものだと言いたいだけだ。もっとも、完全に容疑が晴れるわけではないが、そのほうが私も犯人を特定しやすくなるだろう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...