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プロローグ

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「とにかく、調べてみようぜ。いざとなったら扉のひとつやふたつぶち破ってやらぁ」

 相変わらず短絡的、気の短そうな近藤は、押木達の視界の先へと向かって歩き出す。いかにも職人気質といった感じだが、その姿は接客業というよりも建設業という方がしっくりくるような気がした。まぁ、魚屋と言われれば納得できないでもないのであるが。

「階段は狭いから、全員でぞろぞろと調べに行くのも窮屈でたまらんし、女性諸君にも不快な思いをさせてしまうだろう。調べに行くのは私と……確か押木君だったか、それと近藤さんの三人にしよう。女性陣はここで待っていて欲しい。その間に……」

 近藤の名はしっかりと覚えているのに、自分の名前だけ曖昧に覚えられている。それがなんだか近藤よりも信頼されていないようで寂しかった。しかし、そんなことを口には出せずにいる押木をよそに、宮澤は女性陣に向かってこう続けた。

「私達が出口を調べている間に、互いの身体検査をしておいて欲しいんだ。フロアで行うのが嫌ならば、誰かの個室でも構わない。少なくとも、私のような中年のおじさんに身体検査をされるよりはいいだろう?」

 宮澤の言葉に女性陣は顔を見合わせ、浦河にいたっては胸に両手を当てて顔を赤らめる。

「え? し、身体検査ですか……。しかも女の子同士で? もしかして、そこから百合展開なんてことを考えてるんじゃないでしょうね!」

 どうやらとんでもない勘違い……いや、展開を思い描いているのであろうが、宮澤はそれを聞き流すと大きく頷いた。

「あぁ、さすがに男性が女性の身体をまさぐるわけにもいくまい。本当なら、あの戸田とかいう女性も調べて欲しいが、それは現状では無理と判断するしかないだろうな。とにかく、互いに身体検査をして欲しいんだ。誰かが凶器になり得るものを持っていないのかをな……。ルール通りに共同生活が送られるのならば、犯人は必ず我々を殺害するための道具を所持していなければならない。まぁ、世の中には素手で人を殺せるような猛者もいるようだが、少なくともここに集められた人間の中にそんな芸当ができる人間がいるとは思えない」

 宮澤が提案した身体検査の意図に納得した押木は、無意識に大きく頷いてしまう。犯人たる人間がいて、この共同生活が事前に仕組まれているものだったとしたら、犯人も事前に準備をしているはずである。

 その中でも外せないのは、殺害に使用する凶器だといえよう。

 むろん、凶器がなくとも首を絞めるなりして殺害することも可能だろうが、それができる人間は限られている。女性が男性にそのような殺害方法を用いるとは思えないし、力のある男性だとしても、相手が男性なら返り討ちにされる恐れがある。

 しかも、正しい犯人を指摘することが脱出の条件である以上、犯人は殺害現場を他の者に目撃されてはならない。そんな状況で、果たして凶器なしで人殺しをしようなんて考える人間がいるだろうか。

 もし、自分が犯人ならば、事前に凶器を用意しているに違いない。押木は何度も頷きながら、女性陣の反応を見守る。

「つまり、凶器を所持していない人物は限りなく白に近くなる。非力な女性が犯人ならば、必ず凶器を用意しているはずだからな。おっと、別に女性差別をしているわけではない。ただ、身体検査をして凶器が見つからなければ、貴方達女性陣の疑いは晴れたようなものだと言いたいだけだ。もっとも、完全に容疑が晴れるわけではないが、そのほうが私も犯人を特定しやすくなるだろう」
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