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プロローグ

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 宮澤の引き留めがスイッチであったかのように、仲沢は唾を飛ばしながら怒号をフロアへと放った。その言葉に反応し、無意識の内に互いの様子を伺ってしまうことに、押木は自己嫌悪するばかりだ。

 この中に犯人がいる。

 その事実は、一同が知らぬ内に肥大して、いずれは全員を食い殺してしまうのではないか。押木がそう感じてしまうほどに、徐々にではあるが疑心暗鬼の空気がフロアには漂い始めていた。

 一人でさっさと部屋に篭ってしまった澪。そして、今まさに自室の扉を開けた仲沢。唇を噛みしめてそれを見送ることしかできない宮澤。怯えたように小刻みに震える亜由美と、亜由美を気遣ってか、それに寄り添ってやっている由紀子。近藤は面白くなさそうな表情で頬をかき、杏奈はおろおろと辺りを見回してばかりいる。

 この中に、本当に犯人がいるのか。いるのだとすれば誰が犯人なのか。短絡的で気の短い人間も混じっているが、誰も人を殺しそうな人間には見えなかった。

「仕方あるまい。残った人間だけで今できることをしよう」

 仲沢が消えてしまった扉を見て溜め息をつくと、宮澤はフロアに残った押木達の顔を見回した。

「それとも、私の方針に反対という人はまだいるだろうか? 件の彼女らはあんな感じだし、他に不満がある者がいるなら先に言って欲しいんだ。仲違いする前に全員が納得した形で話を進めたい」

 宮澤の言葉に対して口を開く者は誰一人としていなかった。その代りに、それぞれが小さく頷いただけ。この状況下で宮澤のようにリーダーシップを発揮できる者はいないだろうし、方針に反対するからには他の方針を提示しなければならない。

 よって、とりあえず引っ張ってくれそうな者に従う。これは、日本人ならば誰しも経験があることであろう。もっとも。常に誰かの上に立っているような人間は別にして。

「それで、とりあえず出口をもう一度調べてみるんだったよな?」

 一同が宮澤の方針に従う意思を示したのを確認した押木は、上り階段の方に視線を移して呟く。

 宮澤だけが口を開いてばかりいると、まるで全てを宮澤に託してしまうようで、それが無責任であるかのように押木は考えたのだった。宮澤は宮澤で一人舞台のようになるのが嫌だったのであろう。押木の言葉に力強く頷く。

「あぁ、あまりこんなことは言いたくないのだが、ルール説明の際に出口を調べた彼が犯人で、一芝居打ったなんて可能性もある。もっとも、この共同生活の趣旨を考えれば、まず出口が封鎖されていて当然なのだがね」

 宮澤はそう言うと、押木と同じように上り階段の方へと視線を移した。自然と、間宮達の視線も上り階段の方へと向く。

 無機質なコンクリートの空間。そこに口を開ける狭い上り階段。どうやら、ここはどこかの地下室であるようだし、出口は階段の先にあると考えるのが自然だ。むしろ、それ以外に出口らしきものは見当たらない。もっとも、それぞれに用意された個室は調べていないのだから、一概にそうだとも言い切れないのであるが……。
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