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プロローグ

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『地下室の人間の中に犯人が混じっていて、その犯人を正確に指摘することがみなさんの助かる方法であることはご理解いただけたと思います。ですが、この状況下で……しかも48時間という限られた時間の中で、正しい犯人を導き出すのは困難です。ですから、ある条件が成立した場合に限り、こちらから犯人に関するヒントを出して差し上げようと思います』

 ここから脱する方法は、正しい犯人を48時間以内に特定し、解答室にて解答すること。それの手助けをすると声の主は言っているのだ。正答を導き出すための材料が増えることは嬉しい限りであるが、なんせここまで理不尽なルールを突き付けて来る相手のことだから、その条件というのもロクなものではないのであろう。

 そして、押木の抱いた嫌な予感は、ものの見事に的中する。

『その条件とは、誰かが死ぬこと――。みなさんが死ぬ度に、こちらは皆さんにとって有益な情報をヒントとして提供します。人が死ねば死ぬほど、残されたみなさんは犯人に近付けるわけです』

 青ざめた。誰がというわけではなく、空間全体から血の気が引いていった。ただ、その中で小さく鼻で笑ってみせた澪の表情が妙に気味わるくて、押木は例え難い不快感を覚えた。不謹慎というか、この状況を鼻で笑い飛ばせる神経が解せない。

 犯人に迫るヒントをもらえるものならば、誰だって欲しい。しかし、そのヒントが与えられる条件は、この8人のいずれかが死ぬこと。つまりは誰かの命と引き換えに、残された人間は犯人に迫るヒントを得ることができる。

 ふと【生贄】という言葉が押木の頭をよぎった。かの昔、雨が全く降らない年や、洪水が起きた年などに、日本人は神様に【生贄】をささげることで、災害を抑えようとした。いや、その当時はそれで災害が抑えられると信じられていた。残された家族が生き残るために残酷な決断を迫られることが日本にはあったのである。

 それと似たようなことが、この状況下で再現される。残された人間が生き残るために誰かが犠牲になる。そんな、おとぎ話レベルの【生贄】が、ここでは当たり前のように扱われる。

『ルール説明は以上になります。つまり、みなさんは48時間が経過してしまう前に、犯人を特定して解答室で解答してしまえばいいだけです。ちなみに、誤解されないように補足しておきますが、私は公平な第三者の立場です。犯人に加担したりもしませんし、みなさんに手を貸してやることもない。いわゆる、スポーツなんかにおける実況者といったところですか。それでは、またなにか進展がありましたら、リクエストのナンバーと一緒に、みなさんに素敵な情報をお伝えして参ります。それでは、充実した共同生活を……。それじゃあ、またね!』

 押木が理解する速度よりも明らかにはやく、また捲し立てるかのようにして声の主は一方的に言葉をまき散らすと、こちらのことなどお構いなしといった具合で、勝手に話をまとめてしまった。

「待て! まだいくつか訊きたいことがある!」

 フェイドアウトしつつあった声の主を宮澤が引き留めるが、どこの誰ぞが歌っているかも分からない陽気な歌と共に、スピーカーから漏れる音が徐々に失われていった。
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