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プロローグ

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『時は金なり。人という生き物は、常に時間とともに暮らし、時間とともに老いて行き、寿命を迎える。つまり、この共同生活においての寿命を設定させていただきます。その寿命は48時間。共同生活を始めてから48時間が経過した時点で、犯人に殺害されずともみなさんには死が訪れまーす! 人はいずれ死んでしまうからこそ輝けるものなのです。ですから、頑張って犯人を見つけてください!』

 そこに追い撃ちをかけるかのごとく追加されたルールは、どこぞのポップス歌詞で使い古されたような、こそばゆいフレーズをともなっていた。

 人間はいずれ死んでしまうだろうが、いつ死ぬか知ることができないからこそ、毎日を平穏に過ごすことができるのだ。残りの命が最長でも48時間だと告知されて輝ける人間などいないし、それ以前に命を落とす恐れもあるのだから、頑張れと言われても馬鹿にされているとしか思えない。

 常に犯人に殺害されるリスクを背負いながら生き延びても、48時間後には強制的に死が訪れる。結局のところ、正しい犯人を指摘する他に死を回避する術はないということだ。

『時間の経過は、それぞれの部屋に備え付けられている時計で確認して下さいね。おやおや、みなさん……どうも表情が暗いようですね。これから共同生活が始まるのですから、もっと明るくいきましょうよ。では、そんなみなさんに明るいニュースをひとつ。最後に発表させていただくルールは、みなさんにとっても有益なルールになります』

 わけの分からないまま話が進み、矢継ぎ早に現実離れした奇妙なルールばかり告げられていては、憂鬱になって当然である。この場面で明るく振る舞える人間のほうが異常と言ってもおかしくはないくらいだ。

 しかも、それらの内容は全て命に関わるものばかり。人間は誰だって自分が死んでしまうなど夢にも思っていない。いずれは死んでしまうことが分かっていても、それは遠い先の話だと信じて生きている。そうでもしなければ常に死の恐怖に怯え、毎日ビクビクしながら生きて行くことになるのだろうから。

 それが現実として突きつけられている中で、誰がポジティブにこの状況を受け入れられるものか。

 もはや、ここまでのルールを聞いた限りでは希望もへったくれもない。あるのは絶望……死に瀕した絶望のみ。ここに有益なルールが追加されたとしても、さほど状況は変わらいないであろう。頭ではそう考えているものの自然と身構えてしまうのは、もしかすると有益なルールにわずかな希望を垣間見ているからなのかもしれない。

 宮澤は黙って次の言葉を待っている。澪は相変わらず一歩引いて状況を見ているようだし、杏奈は指を折りながらルールを復習しているようだった。亜由美と由紀子は不安そうな表情を浮かべるばかりで、近藤と仲沢は不機嫌そうな表情を浮かべてはいるものの、暴れ出したり怒鳴ったりする気配はない。

 少しずつ状況を受け入れようとしている……。現実を現実として受け止め、この状況を打破する方法を模索している。かく言う押木も、この奇妙な共同生活から脱する方法の模索を始めていた。

 つまり、とにもかくにも共同生活にルールが設けられているのならば、それを理解しなければ現状も打破できないと考え始めていたのである。
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