黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作

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 辺りには嫌でも動揺が漂い、改めて押木は日常からかけ離れた……それも、得体の知れない異常な空間にいることを再認識する。それに追い撃ちをかけるかのように、あらかた予想していたことを声の主はさらりと言ってしまった。

『しかもぉ! その犯人は地下室の人間の中にいまぁす! はい、これがルール2の【犯人は地下室の人間の中にいる】です! さて、果たして誰が犯人なのか? これは面白くなりそうですよぉ』

 四方を覆う無機質なコンクリート。上へと続いている階段。そして、少し淀んでいるような気のする空気。

 押木は周りをぐるりと見回すと、今度はそれぞれの顔を見回した。犯人は地下室の人間の中にいる。何度もその言葉が脳内で再生される。

 他の人間からしても衝撃的な一言だったのであろう。押木がそれぞれの顔を見回した時に何度も他の人間と目が合った。しかも、それらの目には一様に疑心暗鬼の色が濃く映し出されていたのだ。

 この非現実的で、創作物でも有り得ないような異質な空間。そこに集められた八人は全てが被害者であり、全く同じ境遇だと押木は思っていた。だが、それはどうやら大きな間違いだったようである。

 ふたつ目のルールを素直に解釈するのであれば、この空間に集められた八人の中に犯人がいる。そんな状況では互いが疑心暗鬼になってもおかしくはなかった。いや、疑心暗鬼にならないほうがおかしい。

 押木、亜由美、宮澤、杏奈、澪、仲沢、近藤、由紀子。

 それぞれが何を思い、そして現状をどのように受け止めているのか。自分自身がどのように考えているのかさえ曖昧な押木には、それが分かるはずもなかった。

『いいですねぇ。その互いを疑うような目。でも、残念なことに犯人は地下室にいる人間の中の誰かでーす! こればかりは曲げようのない事実ですので、みなさん諦めて下さい。さぁさぁ、まだまだルールはありますよぉ』

 コンクリートに覆われた空間が冷えゆくなか、それに反比例するかのように声の主のトーンが上がる。もはや楽しんでいるとしか思えないくらいだ。

『確かに犯人はみなさんを殺害しようとしますし、そのまま黙って指をくわえているだけでは全滅してしまうことでしょう。しかし、ご安心下さい。みなさんにも抗う権利が与えられているのです! まずはみなさんの背後……上へと続く階段の反対側に見える扉にご注目下さーい!』

 これまでスピーカー側へと視線を向けていた一同が、一斉に背後の方へと振り返る。まるでバスガイドに案内されるままに、同じ方向を向いてしまう旅行客のようだった。

 階段の反対側には、鉄扉が1枚だけ佇んでいる。両側には4枚ずつの扉がならんでいるだけに、その扉があるだけの景色は妙に寂しく、そして異質のように見えた。

『そこはみなさんの部屋とは違い【解答室】という名前がつけられた特別な部屋です。もし、犯人が分かった人がいたら、そこで解答してもらうことになります。ただし、解答権は1人につき一度だけ。もし見事に犯人を当てることができれば、ここから解放されるだけではなく一億円のお土産も差し上げます。でも、間違えてしまった場合は……死んでいただきますので』
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