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プロローグ
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「うるせぇ! どこに隠れてものを言ってやがるんだ? 人をコケにしてそんなに面白ぇか!」
『……面白いですよ。特に自分の立場を理解していない愚か者をコケにするのは。というか、そろそろ進行してもいいですかねぇ? ご老人に構っているほど暇じゃないんですよぉ』
近藤の怒号に対して、冷たく言い放たれた一言。それに押木は背筋が凍る思いだった。
一言で言ってしまえば感情がない。ちゃらけた感じで喋りつづけていた割に、その言葉は冷たくて無感情なものなのだ。例えるのならば、温厚で滅多に怒らないタイプの人間が、何の前触れもなく怒り出したかのような驚き。ギャップと例えるのはおかしいのかもしれないが、これまでの調子が調子だっただけに、それはさらに不気味さを増した。
それでも近藤は何かを言い返そうとするが、そこに宮澤と名乗っていた男が歩み寄り、近藤のことをさとした。
「お気持ちは分かりますが、今は状況を知ることが最優先かと思います。ですから、我慢していただけると有難いです」
宮澤の言葉に近藤は顔を真っ赤にしながらも、小さく頷く。現状の把握が最優先であることは、きっと近藤自身も分かっているに違いなかった。
『いやぁ、素晴らしいですねぇ! これまで赤の他人同士だった人間が助け合う。時には励まし合い、時には叱咤し合って、ひとつになっていく。これこそ人間の素晴らしき結束と言えるでしょう。この調子なら、この先もいいものを見せて貰えそうだ』
「少しは口を慎んでもらえないだろうか? さっきから聞いていると、君の言葉は一言も二言も余計なように思える。ここで私達をおちょくることが君の目的ではないはずだ」
宮澤と近藤のやり取りに、拍手のジングルが入ったが、宮澤は明後日の方向に視線を向けながら、冷静でありながらも強い口調で言い放った。
ふと、つられて押木が宮澤の視線の先に顏を向けると、そこには小さなカメラがぶら下がっていた。どうやら、声の主はそのカメラでフロアを監視しているようだった。
「さっき、個室を調べた時にも同じものを見付けた。恐らく、私達は何者かによって監視されているのだろう」
押木の視線の意味を察したのか、宮澤が一同をぐるりと見渡しながら呟き落とした。さすが、一足先に目を覚ましていただけのことはある。
『へぇ、なかなか洞察力があるじゃないですか。やっぱり、こういったシチュエーションには、一人くらい頭の切れる人間がいたほうがいいですねぇ。おっと、女性の方々に言っておきますが、監視カメラを設置しているのは邪な下心があるからではありません。あくまでも皆さんの動きを監視させていただくためですよ。ですからご安心を』
宮澤の言葉に対して返ってきた反応に、澪があからさまな舌打ちをした。
「こんなところに放り込んだ上に、盗撮までするわけ? 流石に趣味が悪いわ。どこのテレビ局だか知らないけど、ここから出たら訴えるからね?」
『あー、心配要りませんよ。残念ながら貴方みたいなタイプの女性は好みじゃありませんので。それに訴えて頂いても結構です。ただし、ここから出ることができたらの話ですけどね……』
ああ言えば、こう言う。暖簾に腕押しといった感じの問答は、結局のところ澪の機嫌を損ねるだけだった。もう何を言っても無駄だと察したのであろう。澪は壁に寄り掛かったままそっぽを向く。
『……面白いですよ。特に自分の立場を理解していない愚か者をコケにするのは。というか、そろそろ進行してもいいですかねぇ? ご老人に構っているほど暇じゃないんですよぉ』
近藤の怒号に対して、冷たく言い放たれた一言。それに押木は背筋が凍る思いだった。
一言で言ってしまえば感情がない。ちゃらけた感じで喋りつづけていた割に、その言葉は冷たくて無感情なものなのだ。例えるのならば、温厚で滅多に怒らないタイプの人間が、何の前触れもなく怒り出したかのような驚き。ギャップと例えるのはおかしいのかもしれないが、これまでの調子が調子だっただけに、それはさらに不気味さを増した。
それでも近藤は何かを言い返そうとするが、そこに宮澤と名乗っていた男が歩み寄り、近藤のことをさとした。
「お気持ちは分かりますが、今は状況を知ることが最優先かと思います。ですから、我慢していただけると有難いです」
宮澤の言葉に近藤は顔を真っ赤にしながらも、小さく頷く。現状の把握が最優先であることは、きっと近藤自身も分かっているに違いなかった。
『いやぁ、素晴らしいですねぇ! これまで赤の他人同士だった人間が助け合う。時には励まし合い、時には叱咤し合って、ひとつになっていく。これこそ人間の素晴らしき結束と言えるでしょう。この調子なら、この先もいいものを見せて貰えそうだ』
「少しは口を慎んでもらえないだろうか? さっきから聞いていると、君の言葉は一言も二言も余計なように思える。ここで私達をおちょくることが君の目的ではないはずだ」
宮澤と近藤のやり取りに、拍手のジングルが入ったが、宮澤は明後日の方向に視線を向けながら、冷静でありながらも強い口調で言い放った。
ふと、つられて押木が宮澤の視線の先に顏を向けると、そこには小さなカメラがぶら下がっていた。どうやら、声の主はそのカメラでフロアを監視しているようだった。
「さっき、個室を調べた時にも同じものを見付けた。恐らく、私達は何者かによって監視されているのだろう」
押木の視線の意味を察したのか、宮澤が一同をぐるりと見渡しながら呟き落とした。さすが、一足先に目を覚ましていただけのことはある。
『へぇ、なかなか洞察力があるじゃないですか。やっぱり、こういったシチュエーションには、一人くらい頭の切れる人間がいたほうがいいですねぇ。おっと、女性の方々に言っておきますが、監視カメラを設置しているのは邪な下心があるからではありません。あくまでも皆さんの動きを監視させていただくためですよ。ですからご安心を』
宮澤の言葉に対して返ってきた反応に、澪があからさまな舌打ちをした。
「こんなところに放り込んだ上に、盗撮までするわけ? 流石に趣味が悪いわ。どこのテレビ局だか知らないけど、ここから出たら訴えるからね?」
『あー、心配要りませんよ。残念ながら貴方みたいなタイプの女性は好みじゃありませんので。それに訴えて頂いても結構です。ただし、ここから出ることができたらの話ですけどね……』
ああ言えば、こう言う。暖簾に腕押しといった感じの問答は、結局のところ澪の機嫌を損ねるだけだった。もう何を言っても無駄だと察したのであろう。澪は壁に寄り掛かったままそっぽを向く。
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