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プロローグ

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 まるで、どこかからこちらの様子を伺っているかのような言動に、またしてもスタッフの笑い声らしきジングルが入る。状況が状況なだけに、このしつこい演出には辟易してしまう。普段テレビ番組を観ている時でも鬱陶しいと思うことがあるのだから尚更だ。

「ちくしょう! どうなってんだよこれっ!」

 階段を駆け上がった仲沢の苛立ちがフロアへと降りて来る。それと同時に扉を蹴ったのであろう。除夜の鐘にも似た金属音がフロアに響いた。

『ですから、そこから外に出ることは出来ないですって……。外に出る方法はこれから教えてあげるから。今は皆の紹介を黙って聞いていて貰えないかな? きっと、君の自分勝手な行動に、他の皆さんも迷惑してると思うよ?』

 そしてまた、笑い声のジングル。そろそろ鬱陶しくなってきた。

 仲沢は諦めたのかフロアに戻ってくるが、押木達の方をちらりと見て「見んなや!」と怒号を飛ばすと、そのまま床にどかりと座り込んでしまった。

 前途多難。ただでさえ状況が掴めていないのに、仲沢のような存在はいささか厄介に思えた。押木は思わずため息をひとつ。

 どこに行っても集団の輪を乱す奴は必ずいるものだが、この状況下では勘弁してもらいたいものである。

『よし、落ち着いたところでどんどん行きましょう! 続いて四人目のご紹介。北村由紀子さん! 彼女はなんと数か月後に結婚式を控えているにもかかわらず参戦です! きっと、今頃フィアンセが必死になって探していることでしょう。ぜひともここから脱して無事に式を挙げていただきたい。ちなみにフィアンセとは同じ職場の保育園で知り合ったそうです。いやぁ、恋のきっかけって割と職場が多かったりするんですよねぇ』

 その紹介に、辺りを見回しながら顔を真っ青にしている女性がいた。腕をさすりながら、体は小刻みに震えているようだった。彼女が北村由紀子であることに気付いたのは、きっと押木だけではなかったであろう。

 服装。化粧っ気のない顔。仕草。全てが地味であり、お世辞にも色気なんてない。押木からすれば、どこにでもいそうなおばさんといったところだった。

 淡々とここに集められた人間の紹介が続く。陽気に、少し茶化しながらも、それがまるで何かのマニュアルに則っているかのごとく。

『これでちょうど半分の紹介が終わったわけだ。いいかい? おさらいしておくぜ。ニット帽に黒のスカジャン。さっきからすかした感じで成り行きを見守っているのが押木準君。小動物のように怯えているのが間宮亜由美ちゃん。クズ人間ぶりを早速発揮してくれたのが仲沢義明君。そして、地味という言葉が服を着て歩いているようなのが北村由紀子さんだ。さぁ、この調子で後半も一気に紹介しよう。おっと、その前にリクエストです。南区にお住いの匿名さんからのリクエスト。今を代表する佐渡ヶ島出身のアーティスト【sad】の【もう少し音量を下げていただけませんか?】です! お聞きください』

 そして、曲が切り替わり、テレビや街中で嫌というほど聞かされている話題の歌姫の新曲が、冷たい空間に響き渡った。普段はなんの気なしに耳している曲だが、それがなんだか懐かしい気さえしてしまう。
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