6 / 94
プロローグ
6
しおりを挟む
「こっちは、宮澤信次郎に浦河杏奈そして近藤直人か――。じゃあ、最後の部屋が私の部屋ってことになるわね」
そんな彼女は次々と扉を見て回ると、最後の扉の前で立ち止まり、溜め息混じりにドアノブに手をかける。その時のことだった。
静寂に包まれていた無機質な空間に、突如として大音量のクラシックミュージックが流れ始める。思わず耳を塞いだ押木が辺りを見回してみると、空間の四隅にスピーカーらしきものがぶら下がっている。どうやら、この大音量の音楽はそこから垂れ流されているようだった。
この空間にはそぐわぬ優雅な音楽に、一同が得も言われぬ不安を表情に浮かべる。きょろきょろと辺りを見回す者に、大きく溜め息をつく者。それぞれの反応は異なっていたものの、それらに共通して見られるのは負の感情ばかりだった。
そして、その負の感情はクラシックミュージックが小さく絞られると同時に強いものとなった。
『みなさんこんばんは! さぁ、今回は富溢市お住まいのラジオネーム【これからみなさんにはデスゲームを行ってもらいます】さんからのリクエスト。クラシックの名曲とも名高いG線上のアリアのナンバーからスタートしました。今夜も【ゲームの運営者】がみなさんのお相手をいたします』
例えるならラジオ番組だった。いや、ラジオ番組そのものだった。スピーカーから漏れ出していたクラシックにそぐわぬ、明るい声で続けられる口上は、それこそ夕方辺りに流れるローカルラジオ局の番組とさほど違いはなかった。
『おやおや、どうやらみなさん驚きのご様子で。もしかして私のことを御存知ではない? いや、知らないよねぇ。だって名乗ってねぇんだもの。これはうっかりしてたなぁ』
呆気に取られる一同を嘲笑うかのように、お笑い番組で耳にするわざとらしいスタッフの笑い声が合いの手を入れる。
「何なんだよこれは。俺達を馬鹿にしてんのか? あぁ?」
金髪の男がスピーカーに向かって睨みを利かせたが【ゲームの運営者】と名乗った人物は聞く耳を持たず。こちらのことなどお構いなしといった具合で、陽気に続ける。
『いや、名乗ってるじゃーん。さっき名乗ったじゃん! これだから歳はとりたくないですねぇ』
そしてまた、わざとらしい笑い声。ただでさえ、普段からお笑い番組を観る際にわざとらしいと思っていた押木にとって、それは鬱陶しいもの以外の何物でもなかった。
『さぁ、小粋な笑いでみなさんの緊張もほぐれたことだし、まずはみなさんをご紹介しましょう。合コンの時でも、クラス替えがあった時にも、やっぱり最初は自己紹介。これは人としての基本ですよねぇ。皆さんはこれから苦楽を共にするわけですから、しっかりと誰が誰なのか把握しておきましょう!』
金髪の男は苛立ったかのように壁を蹴り、ドレスの女は腕を組んだまま鼻で笑う。
亜由美は不安そうな表情で押木を見上げ、押木は金髪の男と同じような行動を取らないように自分を必死に抑え込む。こんな状況下に放り込まれた上、馴れ馴れしくノリノリでラジオ放送もどきを始めたスピーカー。これで不安と苛立ちを覚えない方が稀だ。
そんな彼女は次々と扉を見て回ると、最後の扉の前で立ち止まり、溜め息混じりにドアノブに手をかける。その時のことだった。
静寂に包まれていた無機質な空間に、突如として大音量のクラシックミュージックが流れ始める。思わず耳を塞いだ押木が辺りを見回してみると、空間の四隅にスピーカーらしきものがぶら下がっている。どうやら、この大音量の音楽はそこから垂れ流されているようだった。
この空間にはそぐわぬ優雅な音楽に、一同が得も言われぬ不安を表情に浮かべる。きょろきょろと辺りを見回す者に、大きく溜め息をつく者。それぞれの反応は異なっていたものの、それらに共通して見られるのは負の感情ばかりだった。
そして、その負の感情はクラシックミュージックが小さく絞られると同時に強いものとなった。
『みなさんこんばんは! さぁ、今回は富溢市お住まいのラジオネーム【これからみなさんにはデスゲームを行ってもらいます】さんからのリクエスト。クラシックの名曲とも名高いG線上のアリアのナンバーからスタートしました。今夜も【ゲームの運営者】がみなさんのお相手をいたします』
例えるならラジオ番組だった。いや、ラジオ番組そのものだった。スピーカーから漏れ出していたクラシックにそぐわぬ、明るい声で続けられる口上は、それこそ夕方辺りに流れるローカルラジオ局の番組とさほど違いはなかった。
『おやおや、どうやらみなさん驚きのご様子で。もしかして私のことを御存知ではない? いや、知らないよねぇ。だって名乗ってねぇんだもの。これはうっかりしてたなぁ』
呆気に取られる一同を嘲笑うかのように、お笑い番組で耳にするわざとらしいスタッフの笑い声が合いの手を入れる。
「何なんだよこれは。俺達を馬鹿にしてんのか? あぁ?」
金髪の男がスピーカーに向かって睨みを利かせたが【ゲームの運営者】と名乗った人物は聞く耳を持たず。こちらのことなどお構いなしといった具合で、陽気に続ける。
『いや、名乗ってるじゃーん。さっき名乗ったじゃん! これだから歳はとりたくないですねぇ』
そしてまた、わざとらしい笑い声。ただでさえ、普段からお笑い番組を観る際にわざとらしいと思っていた押木にとって、それは鬱陶しいもの以外の何物でもなかった。
『さぁ、小粋な笑いでみなさんの緊張もほぐれたことだし、まずはみなさんをご紹介しましょう。合コンの時でも、クラス替えがあった時にも、やっぱり最初は自己紹介。これは人としての基本ですよねぇ。皆さんはこれから苦楽を共にするわけですから、しっかりと誰が誰なのか把握しておきましょう!』
金髪の男は苛立ったかのように壁を蹴り、ドレスの女は腕を組んだまま鼻で笑う。
亜由美は不安そうな表情で押木を見上げ、押木は金髪の男と同じような行動を取らないように自分を必死に抑え込む。こんな状況下に放り込まれた上、馴れ馴れしくノリノリでラジオ放送もどきを始めたスピーカー。これで不安と苛立ちを覚えない方が稀だ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる