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プロローグ
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亜由美が声をかけながら揺さぶっても、目を覚ます気配はない。だがしかし、女性の顏は非常に血色が良くて、間違っても死んでいるようには思えなかった。
「……お腹すいた」
その証拠に、亜由美が声をかけ続けること数分。まるで見当違いなことを口にしながらも、その女性はうっすらとまぶたを開けた。
それを見た押木は、亜由美にならって、近くに倒れていた男性へと駆け寄り、亜由美と同じようにして声をかけてみる。
男性は恐らく20代前半だろうが、下手をすると10代後半でも通るような童顔であった。それを否定するためなのか、金色の髪をライオンのたでがみの如くおっ立てているが、それが逆に幼さを際立てていた。このようなタイプは、繁華街のコンビニエンスストアの前などで見かける。何をするでもなく、たまに思い出したかのようにコンビニへと入り、飲み物や食べ物を買ってきては、朝までそこに居座り続ける。自尊心が強いのか、それとも自分を強く見せたいのか、やけに攻撃的で、その被害に遭っている人間を押木は何度も見たことがあった。もっとも、それを助けてやれるほど、押木も強い人間ではないのではあるが。
押木の呼びかけで男性は目を覚まし、それを確認した押木は男性の問いかけを無視して別の人間を叩き起こす。亜由美も同様のように、起きた人間から疑問符が浮かぶと、他の人間の元へと走った。
押木と亜由美が求めているのは疑問符ではなかった。ここがどこなのか。何が起きているのか。疑問符を払拭してくれるような言葉を押木達は求めていた。しかし、フロアに倒れていた全員が目を覚ましても、そこにあったのは押木達が抱いているような疑問符ばかりで、求めているような答えを口にしてくれる者は誰一人としていなかった。
自分の置かれた状況に戸惑い、辺りをぐるりと見回す者。寝ぼけたように目を擦り、まだ現実として現状を受け入れる準備ができていない者。
フロアにいる人間は全部で7人。押木が最初に起こした彼がそうだったように、ぱっと見た感じでは年齢や性別はもちろんのこと、実に様々なタイプの人間が集まっているようだった。
黒のドレスに身を包んだ、いかにも夜の蝶といった感じの女性の隣には、黒髪を結わえた地味な格好の女性。押木が起こした金髪の男性から少し距離を置いて、眼鏡のOL風の女性。フロアの隅には競り市から抜け出して来た八百屋のような格好をした男性が佇んでいる。
全員が状況を理解できていないようで、それぞれが個々として戸惑うばかりであり、場をまとめ上げようとする者はいなかった。目覚めたらコンクリートに囲まれた意味不明の空間。そこに見ず知らずの人間が集められている。どうしてここにいるのかさえ分からない者達に、そんな余裕などなかったのかもしれない。
ただ、ずっとこうしているわけにはいかなかったし、一刻も早く状況の把握をしてしまいたかった押木は、異様な空気に気圧されそうになりながらも、勇気を振り絞って口を開いた。
「な、なぁ! とりあえずこの状況のことを少しでも知っている人はいないか? 俺は目が覚めたらここにいたわけで、何が起きているのかさっぱりなんだ」
勇気を出し、そして声を若干上擦らせながらも問うた押木であったが、それに対する一同の反応は予測できていたものだった。
一同が一斉に押木の方へと視線を移し、ある者は小さく首を傾げ、ある者は「それは私が知りたい」と不機嫌そうに漏らす。またある者は押木の声が届いていないくらいに狼狽しているようだった。
「……お腹すいた」
その証拠に、亜由美が声をかけ続けること数分。まるで見当違いなことを口にしながらも、その女性はうっすらとまぶたを開けた。
それを見た押木は、亜由美にならって、近くに倒れていた男性へと駆け寄り、亜由美と同じようにして声をかけてみる。
男性は恐らく20代前半だろうが、下手をすると10代後半でも通るような童顔であった。それを否定するためなのか、金色の髪をライオンのたでがみの如くおっ立てているが、それが逆に幼さを際立てていた。このようなタイプは、繁華街のコンビニエンスストアの前などで見かける。何をするでもなく、たまに思い出したかのようにコンビニへと入り、飲み物や食べ物を買ってきては、朝までそこに居座り続ける。自尊心が強いのか、それとも自分を強く見せたいのか、やけに攻撃的で、その被害に遭っている人間を押木は何度も見たことがあった。もっとも、それを助けてやれるほど、押木も強い人間ではないのではあるが。
押木の呼びかけで男性は目を覚まし、それを確認した押木は男性の問いかけを無視して別の人間を叩き起こす。亜由美も同様のように、起きた人間から疑問符が浮かぶと、他の人間の元へと走った。
押木と亜由美が求めているのは疑問符ではなかった。ここがどこなのか。何が起きているのか。疑問符を払拭してくれるような言葉を押木達は求めていた。しかし、フロアに倒れていた全員が目を覚ましても、そこにあったのは押木達が抱いているような疑問符ばかりで、求めているような答えを口にしてくれる者は誰一人としていなかった。
自分の置かれた状況に戸惑い、辺りをぐるりと見回す者。寝ぼけたように目を擦り、まだ現実として現状を受け入れる準備ができていない者。
フロアにいる人間は全部で7人。押木が最初に起こした彼がそうだったように、ぱっと見た感じでは年齢や性別はもちろんのこと、実に様々なタイプの人間が集まっているようだった。
黒のドレスに身を包んだ、いかにも夜の蝶といった感じの女性の隣には、黒髪を結わえた地味な格好の女性。押木が起こした金髪の男性から少し距離を置いて、眼鏡のOL風の女性。フロアの隅には競り市から抜け出して来た八百屋のような格好をした男性が佇んでいる。
全員が状況を理解できていないようで、それぞれが個々として戸惑うばかりであり、場をまとめ上げようとする者はいなかった。目覚めたらコンクリートに囲まれた意味不明の空間。そこに見ず知らずの人間が集められている。どうしてここにいるのかさえ分からない者達に、そんな余裕などなかったのかもしれない。
ただ、ずっとこうしているわけにはいかなかったし、一刻も早く状況の把握をしてしまいたかった押木は、異様な空気に気圧されそうになりながらも、勇気を振り絞って口を開いた。
「な、なぁ! とりあえずこの状況のことを少しでも知っている人はいないか? 俺は目が覚めたらここにいたわけで、何が起きているのかさっぱりなんだ」
勇気を出し、そして声を若干上擦らせながらも問うた押木であったが、それに対する一同の反応は予測できていたものだった。
一同が一斉に押木の方へと視線を移し、ある者は小さく首を傾げ、ある者は「それは私が知りたい」と不機嫌そうに漏らす。またある者は押木の声が届いていないくらいに狼狽しているようだった。
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