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第二話 Q&A【事件編】
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「浴室の天井をはぐればいい。すぐに死体とご対面だ」
想像してしまったのであろうか。巌鉄は非常に嫌そうな顔を見せた。慣れているとはいえ、刑事だって死体を見ないで済むのなら見たくないだろう。しかも、巌鉄は捜査一課を離れてしまっている人間だ。
巌鉄は渋々といった様子で部屋の中へと入っていく。きっと、こんなことなら倉科を同行させれば良かったと後悔していることだろう。
しばらくすると、随分と暗い顔をした巌鉄が戻ってくる。
「こいつは、完全に捜査に落ち度がある。そのうち、鑑識と捜査一課での責任のなすりつけあいが始まるぞ」
それすなわち、死体を確認したということなのであろう。
「おっさん、死体の身元はどれくらいで分かりそうだ?」
一方、部屋の外で巌鉄のことを待っていた坂田は、全くメンタル的なダメージを受けていない。さも当然のように巌鉄へと問う。
「正直、分からんな。警察組織ってのは、基本的にミスが許されないんだよ。だから、こういうことがあった場合は――」
「非公式で内々に処理することがあるんだろ? そもそも、裁判での有罪率がほぼ100パーに近い時点でおかしい話なんだわ。ミスはミスで認めておけばいいものを、下手に隠そうとするからこじれんだよ」
警察組織内に歪みがあることなんて、誰でも知っていることだ。おそらくだが、こうして遺体の発見が遅れてしまったこと自体、警察は公表しないだろう。もちろん、暗黙の了解というやつで、マスコミもその点に関しては触れないし報じない。今はまだ通用しているが、もう少しネットというものが台頭してきたら、メディアも操作できなくなってくるのかもしれない。
「うちのお偉いさんに言ってやってくれ。体裁を整えることだけに命をかけてる連中だからな」
巌鉄はそう言うと大きくため息。
「とにかく、ここから先は鑑識の仕事だ。遺体の身元については、なんとかしてお前に伝えられるようにしてみる。ただでさえ面倒な事件がさらに面倒になりそうだからな」
倉科が呼んだ応援が到着したらしい。複数の足音が、しかも足早に近づいてくる。
「俺みたいのが絡んでいたとなると、おっさんの立場も悪くなんだろ? 俺は行くからよ、詳細が分かったら連絡してくれ。この事件、複雑そうに見えていながら、実は構造自体は単純かもしれねぇからな」
坂田はそう言い残し、現場を去る。そう、頭の中に浮かんだ、ある可能性を噛み締めつつ。
想像してしまったのであろうか。巌鉄は非常に嫌そうな顔を見せた。慣れているとはいえ、刑事だって死体を見ないで済むのなら見たくないだろう。しかも、巌鉄は捜査一課を離れてしまっている人間だ。
巌鉄は渋々といった様子で部屋の中へと入っていく。きっと、こんなことなら倉科を同行させれば良かったと後悔していることだろう。
しばらくすると、随分と暗い顔をした巌鉄が戻ってくる。
「こいつは、完全に捜査に落ち度がある。そのうち、鑑識と捜査一課での責任のなすりつけあいが始まるぞ」
それすなわち、死体を確認したということなのであろう。
「おっさん、死体の身元はどれくらいで分かりそうだ?」
一方、部屋の外で巌鉄のことを待っていた坂田は、全くメンタル的なダメージを受けていない。さも当然のように巌鉄へと問う。
「正直、分からんな。警察組織ってのは、基本的にミスが許されないんだよ。だから、こういうことがあった場合は――」
「非公式で内々に処理することがあるんだろ? そもそも、裁判での有罪率がほぼ100パーに近い時点でおかしい話なんだわ。ミスはミスで認めておけばいいものを、下手に隠そうとするからこじれんだよ」
警察組織内に歪みがあることなんて、誰でも知っていることだ。おそらくだが、こうして遺体の発見が遅れてしまったこと自体、警察は公表しないだろう。もちろん、暗黙の了解というやつで、マスコミもその点に関しては触れないし報じない。今はまだ通用しているが、もう少しネットというものが台頭してきたら、メディアも操作できなくなってくるのかもしれない。
「うちのお偉いさんに言ってやってくれ。体裁を整えることだけに命をかけてる連中だからな」
巌鉄はそう言うと大きくため息。
「とにかく、ここから先は鑑識の仕事だ。遺体の身元については、なんとかしてお前に伝えられるようにしてみる。ただでさえ面倒な事件がさらに面倒になりそうだからな」
倉科が呼んだ応援が到着したらしい。複数の足音が、しかも足早に近づいてくる。
「俺みたいのが絡んでいたとなると、おっさんの立場も悪くなんだろ? 俺は行くからよ、詳細が分かったら連絡してくれ。この事件、複雑そうに見えていながら、実は構造自体は単純かもしれねぇからな」
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