ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

第二話 Ｑ&Ａ【事件編】

94

「まぁ、いい。さっきのでおっさんには伝わっただろ」

　坂田は管理人室の前まで戻ってくると、乱暴に扉をノックする。もはやノックでなく、殴るに等しい。

「おい！　ちょっと面倒なことになったぞ！」

　何度ノックしたことだろうか。しばらくすると鍵を開ける音が響き、恐る恐ると言った感じで、先ほどの管理人が顔を出した。

「そ、そんなに乱暴に叩かなくても分かってるからぁ」

　なにも知らない人間から見たら、まるで坂田が管理人をいじめているように見えてしまうのではないだろうか。それほどまでに、管理人は弱々しく、そして坂田は偉そうに上から目線だった。今さらになって改める気はない。

「あんた、事件のあった部屋――警察の捜査が終わってから誰も入れてねぇよな？　鍵はどうやって管理してた？」

　胸ぐらを掴む勢いで顔を近づけると、管理人は明らかに怖がる。管理人はきっとなにも悪いことはしていないし、坂田とて詰めようと思って詰めているわけではない。双方のスタンスが相まって、どうしても坂田がいじめているように見えてしまうだけだ。

「そりゃ、管理人室に保管してあったよ。管理人室の鍵自体は自分が持っていた。だから、警察の捜査が終わってから今日まで、きっと誰も入っていないよ」

　事件のあった部屋は、捜査が終わってから誰も入ってはいない。ならば、この問題に気づいたのは坂田だけということになる。

「そうか――。あのな、あんまりこんなことは言いたくないけど、もう少し営業の再開は先になりそうだぜ」

「へ？　なんで？」

　小動物のように目を潤ませる管理人に同情しそうになるが、坂田はきっぱりと言ってやった。どうせいずれは分かってしまうことだし、きっと事実は覆せないだろうから。

「あのな、例の部屋にもう一体死体があんだよ。警察には俺から連絡しておいた。もうしばらくしたら、警察の連中が来るだろうから、その時は案内してやってくれ」

　ホテルの経営状況や、管理人の生活なんてものは知ったことではない。むしろ、死体を見つけたことについて謝礼のひとつでも欲しいものだ。

「そ、そんなぁ――」

　その場に崩れ落ちそうになった管理人を立たせると、無理な注文をつけてやる。むしろ、今なら通りそうな気がしなくもなかった。

「監視カメラ……さすがに室内は無理だろうが、廊下にはついてるんだろ？　事件当日の記録はまだ残ってるか？」