上 下
111 / 139
第二話 Q&A【事件編】

56

しおりを挟む
「まぁ、それ相応の謝礼をするってことで話がついたから――」

 坂田はそれを聞いて携帯を取り出す。もし、男が死体のふりをしていただけなのであれば、色々と事情が違ってくる。巌鉄に連絡を入れたかった。こういう時、相手も携帯を持っていれば便利なのに。

 とりあえず、巌鉄のベルを鳴らすだけ鳴らしてみたほうがいい。もし、舞香の言っていることが事実ならば、警察を本格的に巻き込むのはよろしくない。

「それ相応の謝礼ねぇ。とりあえず、頼むほうも頼むほうだけどよ、それを引き受けるほうも引き受けるほうだぜ」

 坂田は携帯を操作し、巌鉄のポケットベルへとメッセージを送信。とりあえずこちらの電話番号だけ打ち込んでおけば、あちらも意図に気づいてくれることだろう。

「とにかく、これで振り出しだな……」

 男はただ死んだふりをしていただけ。囮捜査が大きく失敗してしまっていたがゆえに、その事実に内心で胸を撫で下ろす。人が死んだとなれば面倒なことになるのは避けられないが、今ならばいくらでもごまかすことができる。そんなことを考えていた矢先、坂田は思い知った。

 ――もうすでに、面倒なことに巻き込まれていたことを。

「いや、マイナススタートか」

 人混みの中に向かって、腰を少しだけ落として構える坂田。人混みに紛れて気配をごまかしていたつもりなのであろうが、やり方が雑すぎる。素人のやり方だ。

 ふと、坂田の目の前に拳が現れた。それは、行き交う人の流れを縫うようにして、それでいて流れに逆らいながらも、坂田の面前に迫る。

「まぁ、これくらいの刺激はあったほうがいいよな」

 軌道通りに行けば、確実に坂田の鼻っ柱を捉えていたはずの拳は、しかし残念ながら坂田の手の平によって受け止められる。坂田は受け止めた拳を強く握ると、そのまま握り潰そうと力を入れた。もちろん、相手の拳はそれから逃れようとする。わざと拳を離した坂田は、その拳の先――ひょろりと伸びた腕を掴んで引っ張った。坂田の目の前によろけて現れたのは、全身ライダースーツを着て、フルフェイスヘルメットをしている人物だった。間違っても、繁華街を歩く格好ではない。

「おらぁ!」

 相手がフルフェイスのヘルメットをかぶっているというのに、お構いなしで頭突きをかましてやる坂田。一般的に考えれば、人間の頭と強化プラスティック――勝つのは強化プラスティックなのであろうが、そのような常識は坂田には通用しなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

設計士 建山

如月 睦月
ミステリー
一級建築士 建山斗偉志(たてやま といし)小さいながらも事務所を構える彼のもとに、今日も変な依頼が迷い込む。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作
ミステリー
【お詫び】 第10話の内容が、こちらの手違いにより怪文書となっておりました。すでに修正済みですので、いまちど10話からお読みいただくと幸いです。 申し訳ありませんでした。 これは、よくある物語。 ある空間に集められた8人の男女が、正体不明の殺人鬼に次々と殺害され、お互いに疑心暗鬼に陥っていく。 これは、よくある物語。 果たして犯人は誰なのか。 人が死ぬたびに与えられるヒントを頼りに、突きつけられた現実へと立ち向かうのであるが――。 その結末は果たして。 ルールその1 犯人は1人である。複数ということはない。 ルールその2 犯人は地下室の人間の中にいる。 ルールその3 犯人が解った人間は解答室で解答する。解答権は1人に付き一回。正解なら賞金一億。間違えた場合は死ぬ。 ルールその4 タイムリミットは48時間。タイムリミットまでに犯人を特定できない場合は全員死ぬ。 ルールその5 1人死ぬ度に真実に関するヒントを与える。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...