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第二話 Q&A【事件編】

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 坂田が疑念を抱いたのは、まだ時代的には新しい掲示板の特徴だった。この掲示板というものは、基本的に自己申告なのである。例えば【アキト】なるネット上の名前を名乗るにしても、それは自己申告制となる。中には固定のハンドルネームを使用しないところもある。だから匿名性があるわけだ。ゆえに、別に【アキト】本人でなくとも、掲示板上で【アキト】と名乗ってしまえば、その書き込みは【アキト】に成り変わることが可能だ。

「そんな証拠はどこにもないじゃん。それに、もしそんなことができたとして、本物の【アキト】に見つかったらどうするの? 本物の【アキト】が騒ぎ出してしまうかもしれないのに」

 時は当たり前のように流れ行くし、通り過ぎて行く人々は、まるで坂田達の存在など興味がないかのごとく素通りする。

「だから、その【アキト】がそもそも存在していなかったとしたら?」

 舞香の唇が、やや赤みを失っているように見えた。それどころか小刻みに震えているようにも見える。正直なところ、自分の推測が正しいかは確証が持てぬが、少なくとも舞香を追い詰めていることだけは間違いなかった。言葉をすっかり失ってしまったようだから、舞香に代わってさらに追撃してやる坂田。

「その【アキト】の存在を巌鉄のおっさんが聞いたのは、あんたからだろ? もし、本当は被害者に付きまとっていた男なんていなかったら? 俺達が認識した時点で【アキト】はお前が演じていたとしたら?」

 掲示板は匿名性が強いがゆえに、書き込んだ人物が特定しにくい。その特性を逆手に取れば、坂田がウリを希望する女性を演じたかのように、本人のキャラクターとは別のキャラクターを演じることが可能だ。そして、舞香が【アキト】を演じていたとすれば、坂田の推測に筋が通る。

「ただ、分からねぇこともあるんだ。もしそうだったとして、どうしてお前がそんなことをしなければならなかったのか。それでいて、どうしてわざわざ巌鉄のおっさんに、独自に事件を追うように仕向けたのか。話せる範囲で許してやるから、喋ってみろや」

 舞香の行動には、不自然な点があるのだ。事件を混乱させるようなことをやっておきながら、巌鉄に助けを求めたりしている。もし、仮に全てが舞香の仕業だったとすれば、そこに整合性がないのだ。

「俺は別に犯人を警察に突きつけてやりてぇとか、犯罪者はどうしても許せねぇとか、一文の足しにもならない正義感は持ち合わせてねぇ。ただ、知りてぇんだよ。誰がなにを考えてこんなことをしてんのかよ……」
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