上 下
107 / 166
第二話 Q&A【事件編】

52

しおりを挟む
 人の流れに飲み込まれてしまわぬよう、道端のほうへと移動する。坂田につられるようにして舞香も道端のほうへ。

「――なに? それって私が嘘をついているってこと? だとしたら、私と一緒にホテルに行った男は誰? あいつこそが、あんたと連絡を取り合っていた【アキト】なんじゃないの?」

 人が密集している場所だからか、やけに空気が薄汚れているような気がする。煙草を燻らせながら、ふと見上げた空は、薄汚い空気に遮られているせいか星ひとつ見えなかった。

「そうじゃねぇんだなぁ……」

「じゃあ、誰だって言うの?」

 舞香と一緒にホテルへと行き、そして死んでしまった男の正体。それが【アキト】だとは限らないことに、坂田はもう気づいていた。

「知らねぇよ」

「知らないってどういうこと? ちゃんと説明してよ!」

 売り言葉に買い言葉といった具合で、舞香は声を荒げる。坂田は小さくため息を漏らしてあしらうと、煙草を地面に放り投げ、それを足で揉み消した。

「だから、知らないんだよ。あの時、お前に声をかけるまでは、誰も知らなかったんだ。どこの誰なのか、どんなやつなのかさえもな」

 核心に近いことを口にして、坂田は舞香の様子を伺う。ここまでは想定していたのか、思ったよりも落ち着いていた。追撃の意味もかねて、坂田はさらに続けた。

「あの男は【アキト】じゃない。たまたまあの時、あの場所にいた、通りすがりのナンパ野郎だ。違うか?」

 舞香の表情が明らかに曇った。やはりこの女――なにかを隠している。それがなんなのかは不明だが、どうにも不自然に思える点が多い。

「あの時、お前に声をかけてきた男は、これまで事件には一切無関係の男だった。だとすれば、居酒屋に寄ったのも自然だ。いきなり、ホテルに誘う馬鹿はいないからな。最初から、お前は誰かに声をかけてもらうつもりだったんだよ。だから、あえて露出の高い格好をしてたんだろ?」

 坂田の言葉を受け、しばらく考えるように宙へと視線を泳がせたのち、舞香は口を開く。

「いや、そうだとしたら掲示板であんたとやり取りしてた【アキト】はどこに行ったのよ? もし私が本当にナンパされたのだとしたら、待ち合わせ場所に来た【アキト】があぶれちゃうじゃん」

 坂田がウリをする女になりすまし、掲示板で【アキト】とやり取りをした結果、待ち合わせをして会うことになった。だから、もし舞香が他の男――ただ単にナンパしてきた男について行ったとしたら【アキト】が待ちぼうけをくらうことになる。その点についても、坂田は簡単に説明できた。

「あの【アキト】……お前がなりすませば済む話なんだよ。掲示板で俺とやり取りしていたのは、お前だった。そう考えば、絶対に【アキト】があぶれることはない。なぜなら、その【アキト】になりすましていた人物は、待ち合わせの場所に囮役としていたんだからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...