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第二話 Q&A【事件編】
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坂田が盛大に壊してくれた扉を開けて中に入る。最初こそド派手に壊してくれたものだと思ったが、改めて見てみると、扉の鍵の部分が少しばかり出っ張っているだけで、ぱっと見た限りでは、そこまで違和感はない。そもそも、他のホテル利用者なんて、自分達の部屋以外の扉など注目しないだろう。
部屋の中に入って、改めてその異常さを思い知る。むせかえるような生臭さに、思わず袖で口元を塞いだのは、倉科とて同じだった。
「お前さん、現場経験はどれくらいある?」
まだ研修中の新人なのだから、現場経験は少ないだろう。それこそ、死んだ人間の亡き骸なんて、これが初めてなのかもしれない。シーツを被せて見えないようにはしているが、慎重に扱ったほうがいいだろう。
「あまりないですよ。脱サラからの遅咲きですから、年齢だけはそれなりですけど、経験なんてゼロに等しいです」
巌鉄より歳は下であろうが、しかし新人というには、ややフレッシュさに欠ける。姿格好は中堅であるものの、やはり新人は新人ということか。
「そうか。まぁ、刑事は経験が全てじゃない。もちろん、経験を積むに越したことはないんだがな」
いっそのこと前情報なしに、遺体に被せてあるシーツを剥ぎ取ってやろうか。そうも考えたが、倉科の一言がそれを辛うじて引き留めてくれた。
「えっと、それで囮をやった女性の方は、ここに拘束されていたんですよね?」
ここで何が起きたのか。あらましはすでに説明してある。倉科はベッドの上を指差すと首を傾げる。
「あぁ、粘着テープを使ってな」
巌鉄が答えると、倉科は「だとしたら、やっぱりおかしいですよ」と呟き、独り言のように続けた。
「巌鉄先輩達が追っていた犯人と、この事件の犯人が同一犯だとしたら手口が異なりませんか? 最初の事件の被害者は拘束された形跡すらありませんでした。ならば、なぜ今回に限ってターゲットを拘束しようと考えたのでしょうか?」
時として、現場経験豊富な刑事よりも、倉科のような新人のほうが、目ざとく現場の不審点に気づいたりする。これはベテランの経験則が決めつけの先入観に繋がってしまうからなのだろう。先入観のない人間だからこその気づきなのかもしれない。
「そりゃ、最初の事件で抵抗されたからじゃないか?」
「いえ、最初の事件に関しては、被害者が抵抗した形跡は一切残っていませんでした。鑑識からの資料に何度も目を通しているので間違いありません」
部屋の中に入って、改めてその異常さを思い知る。むせかえるような生臭さに、思わず袖で口元を塞いだのは、倉科とて同じだった。
「お前さん、現場経験はどれくらいある?」
まだ研修中の新人なのだから、現場経験は少ないだろう。それこそ、死んだ人間の亡き骸なんて、これが初めてなのかもしれない。シーツを被せて見えないようにはしているが、慎重に扱ったほうがいいだろう。
「あまりないですよ。脱サラからの遅咲きですから、年齢だけはそれなりですけど、経験なんてゼロに等しいです」
巌鉄より歳は下であろうが、しかし新人というには、ややフレッシュさに欠ける。姿格好は中堅であるものの、やはり新人は新人ということか。
「そうか。まぁ、刑事は経験が全てじゃない。もちろん、経験を積むに越したことはないんだがな」
いっそのこと前情報なしに、遺体に被せてあるシーツを剥ぎ取ってやろうか。そうも考えたが、倉科の一言がそれを辛うじて引き留めてくれた。
「えっと、それで囮をやった女性の方は、ここに拘束されていたんですよね?」
ここで何が起きたのか。あらましはすでに説明してある。倉科はベッドの上を指差すと首を傾げる。
「あぁ、粘着テープを使ってな」
巌鉄が答えると、倉科は「だとしたら、やっぱりおかしいですよ」と呟き、独り言のように続けた。
「巌鉄先輩達が追っていた犯人と、この事件の犯人が同一犯だとしたら手口が異なりませんか? 最初の事件の被害者は拘束された形跡すらありませんでした。ならば、なぜ今回に限ってターゲットを拘束しようと考えたのでしょうか?」
時として、現場経験豊富な刑事よりも、倉科のような新人のほうが、目ざとく現場の不審点に気づいたりする。これはベテランの経験則が決めつけの先入観に繋がってしまうからなのだろう。先入観のない人間だからこその気づきなのかもしれない。
「そりゃ、最初の事件で抵抗されたからじゃないか?」
「いえ、最初の事件に関しては、被害者が抵抗した形跡は一切残っていませんでした。鑑識からの資料に何度も目を通しているので間違いありません」
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