ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

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第二話 Q&A【事件編】

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「だーかーらぁ、あれはどう見ても喧嘩じゃねぇだろ? 勝手に相手がすっ転んでよ、頭から血ぃ流しただけだから」

 その閉鎖的な空間に、聞き慣れた声が響き、それに対して巌鉄は溜め息を漏らす。実に見慣れた男が、制服の警察官に悪態をついていた。巌鉄が警察官のほうに視線をやると、警察官は「お疲れ様です」と言い、さらに続けようとした。これまでの経緯を説明するつもりなのであろう。しかし、巌鉄は警察官の肩に手を置くと「こいつは面倒な奴でな。俺のところに連れてくる判断は正しいぞ」とだけ言ってやった。どうしていいのか分からないのであろう。固まってしまった警察官に対して「こいつは俺が相手しておくから、派出所に戻ってくれ」と言葉をかけてやった。

「あ、あの……あなたが巌鉄さんですよね? 捜査一課にいた頃、伝説を作ったっていう」

「人違いだな。俺の名前は楠浦だし、伝説なんてものも作っちゃいねぇからな」

 普段、巌鉄は名字なんて名乗らないのであるが、巌鉄という名前が自他共に認める形でインパクトが大きいため、こういった時に他人になり仰ることが可能だ。

「そうなんですかぁ。今は少年課にいるって話を聞いたので――」

 文字通り肩を落とした警察官の姿に、多少なりとも罪悪感を抱いた巌鉄は、さりげなくフォローを入れてやる。

「まぁ、本人に会ったら伝えておいてやるよ。お前さん、名前は?」

 またしても分かりやすく表情を明るくした警察官は、姿勢を正して声を張った。

「自分は、津沼忠仁つぬまただひと巡査であります! 曇潟くもりがた派出所で勤務しております!」

 曇潟といえば、雨立街からほど近いところにある住宅街だ。雨立街から近い割に治安も良く、夜遅くまで未成年がうろちょろしていることもない。平和すぎて何も起きない静かなところだ。いや、何もないから平和なのか。

「津沼巡査だな? 顔と名前は覚えたから巌鉄さんに伝えておくよ」

 真面目というか素直なのであろう。津沼と名乗った警察官は「よ、よろしくお願いします!」と疑うこともなく、満面の笑みを浮かべた。

「それじゃあ、派出所のほうに戻ってくれ。わざわざ悪かったな」

 巌鉄が言うと「はい、失礼しました!」と、津沼は少年課を後にした。その背中が見えなくなった途端、連行されてきた少年は馴れ馴れしく口を開く。

「あいつ、ぜってぇあんたに会いたいから俺をダシに使っただろ? あぁいうのありなのか? 健全な少年をありもしない罪でしょっぴこうとしたんだぜ?」

 そして、さも当たり前と言わんばかりに煙草をくわえる。その煙草を奪い取ると、巌鉄は笑みを浮かべた。

「坂田、火のないところに煙は立たないって言葉知ってるか?」
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