上 下
66 / 173
第二話 Q&A【事件編】

11

しおりを挟む
「分かった分かった。全く、お前は煙草に親でも殺されたのか?」

 皮肉を込めて言ってやったつもりだった巌鉄。もちろん言葉のアヤというやつで、実際に遠田の両親が存命か否かも知らない。まぁ、彼くらいの年齢であれば、まだ両親は存命だろう。だから、冗談と皮肉を込めたつもりだった。

「父は僕が18歳の時、母は25歳の時に亡くなりました。どちらも肺癌。ベビースモーカーってやつでした。だからまぁ、煙草に殺されたってのも、あながち間違いではないですね」

 まさかの冗談が、それなりに的を射てしまった。これほど気まずいことはない。

「あ、その。すまん……。そんなつもりはなかったんだ」

「それは分かってますからいいですよ。ただ、先生が素直に謝るとか珍しい。天変地異でも起きそうなんでやめてもらっていいですか?」

 巌鉄としては大人の対応をしたつもりだったのに、相変わらずこちらのほうを見向きもせずに、実に失礼なことを言い放つ遠田。

「お前なぁ――こっちがそれなりに気を遣っているんだから、もう少しそれなりの対応をしろよな」

「僕は気を遣ってくれなんて先生にお願いしてませんから。あ、あった。多分これだ」

 巌鉄と遠田による言葉の応酬の果てに、ようやく遠田はファイルを見つけたらしい。それを開いて確認すると、そのまま巌鉄のところへ持ってきた。

「これですね。確かに、大した対応はできていませんが、ちゃんと話は聞いてますよ。被害届についても、今後も続くようなら検討されていたみたいです」

 舞香の話だと門前払いされたとのことだったが、意外にも総務も仕事をしていたらしい。総務の人間は遠田だけではないし、他のたまたま親切な人間が相談を受けたのであろう。しかし、そう考えると舞香の言っていたことと齟齬が生じる。そこまで気にすることもないのかもしれないが、少しばかり引っかかった。

「相談の内容も記録として残されていますね。僕が対応していたら、それこそ門前払いしてましたけどね」

 さすがは遠田。自分のことは良く分かっているらしい。正直なところ、対応したのが遠田であれば、被害者を見下したような発言をするなど、舞香の言っていたことと合致するような気がする。まぁ、実際は遠田ではない別の人間が担当したらしいが。

 遠田が渡してくれたファイルに目を通す。そこでまず気になった記述。被害者によると、付きまといをしている男の名前はもちろん、住所なども分からないらしい。本人は【アキト】と名乗っていたらしいが、それが本名か定かではないようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...