上 下
65 / 166
第二話 Q&A【事件編】

10

しおりを挟む
【2】

 生活安全課総務。巌鉄もまた安全生活課の人間ではあるが、総務の人間とは業務的なやり取りをするばかりで、そこまで親しくはない。そもそも、捜査一課からの爪弾き者であるため、生活安全課にいても巌鉄の肩身は狭い。もう生活安全課に来て数年経つのだから慣れてもいいようなものなのだが、総務の連中の、それこそ人を見下したような態度は気に入らなかった。

「おい、まだか。まず間違いなく、直近で相談に来ていたはずだぞ。それとも、面倒で門前払いしたから、その記録すら残っていないか?」

 本来なら相談に訪れる人が座るはずの椅子に座り、総務のやつを急かす巌鉄。総務のやつには肩身の狭い思いをさせられているから、そのうっぷんが溜まっていたのかもしれない。巌鉄自身、いい性格をしていると思っている。

「あのねぇ、大から小まで分類するとね、どれだけの相談があると思います? しかも、事件にも発展していなさそうな相談なんて山ほどある。大体、付きまといなんて、別に危害を加えられたわけじゃないんだから、被害届を出せないでしょ? その辺り理解してくれてます? 先生」

 巌鉄のことを先生と呼ぶのは、きっと署内でもこの男だけだろう。皮肉を込めて呼んでいるのが分かる辺り、やはり人を下に見ている気がする。

「だが事実、付きまとっていた男が殺人行為に及んだ可能性があるんだ。実害が出た以上、予期できた事件を未然に防げなかった責任は――俺達にあるとは思わないか?」

 ファイルが並んだ棚の前で、ひとつのファイルを取り出しては中身を確認すると戻し、また次のファイルを取り出し確認するという動作を繰り返しつつ、男は返してくる。

「思いませんね。そもそも、なぜ好意を持っている相手に危害を加えるんですか?」

「自分の思い通りにならねぇからだよ。最近、わがままで幼稚な大人が増えたみたいでな。自分の思い通りにならねぇだけで、人を殺すやつまで出てきてる。総務にいるからって他人事じゃねぇんだ」

 男の意見をねじ伏せてやると、煙草をくわえようとする巌鉄。

「ここ、禁煙なんですけど」

 ファイルを取り出す手を止めると、明らかに侮蔑するような眼差しを向けてくる彼は遠田圭介とおだけいすけという。巌鉄が少年課に来る前から総務にいるくせに、年齢は明らかに巌鉄より下。縁の太い眼鏡の奥に見える細い目が、彼の性格を体現していた。

「細かいこと言うなよ――」

「決まりですから。それにね、知ってます? 煙草は吸っている本人よりも、周りにいる人間のほうが副流煙によって健康被害に遭うんですよ」

 間髪入れずに巌鉄に返してくる遠田。しぶしぶと巌鉄は煙草をしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...