57 / 166
第二話 Q&A【事件編】
2
しおりを挟む
「この度は……なんと言ったら良いか」
日本という国には、どうにも回りくどい文化がある。本音と建前とでもいうべきか、このような時、直接的に「娘さんが亡くなって残念でしたね」なんて無粋な声かけは嫌われる。当たり障りのない挨拶をすると、頭を下げた。
「あの子、ようやく真面目に働きに出るようになっていたんです。それなのに……それなのに」
そこで言葉を失うと、改めて泣き崩れてしまう母親。旦那のほうが駆け寄ってきて「すいません。まだ心の整理が――」と、巌鉄含め周囲へと頭を下げた。
「なんかさ、発見されたのが……ラブホテルだったらしいよ」
「えー、でも千秋って男いなかったでしょ? あ、もしかしてウリ? あの子、高校の時も援交を……」
高校時代からの友人なのか、まるで泣き崩れた母親に追い討ちをかけんとばかりに、この場には一切不要のゴシップじみた話題を出す若い女性グループ。あえて声をひそめているように聞こえて、正直なところ気分が悪い。
「あらぁ、こんな時に不粋な話を持ち出してるから、どれだけ性格がブスな奴か見てやろうと思ったけど、残念なのは性格だけじゃなかったねぇ!」
会場に侵食する嫌な空気を切り裂くかのごとく、低い女性の声が響いた。ハスキーボイスというやつか。声のしたほうに視線をやると、喪服姿の女性が立ち上がっていた。鼻の通った端正な顔立ち。身長はおそらく巌鉄と同じくらいか。かなり高身長な女性だ。どうやら、先ほどの会話がどこから漏れてきていたのかは、声を上げた本人も分からないらしい。会場全体に向けてとばかりに声を上げた。
「人が死んでんだよ。誰にも言い返されないことをいいことにして、故人の悪口をわざわざ葬式で言う必要あるか? 言いたいなら一人で壁にでも向かって言っとけよ。どうしても我慢できないってなら、ここに来るな!」
どこか男勝りの口調に、式場は水を打ったかのように静まり返った。ちょうどタイミングを見計らったかのごとく、坊主が到着する。声を上げた女性は瞳に涙を一杯溜めて、しかしこぼすまいと強がりつつも、玄関から外に飛び出してしまった。
「こりゃ、葬式終わるまで待つしかねぇか」
坊主が来る前に線香だけでも――と思っていたが、その坊主が到着してしまい、あたりの空気も葬式独特の厳かな雰囲気になりつつある。この場でさっと線香だけ上がるなんて真似はできない。葬式に参加するにしても格好がラフすぎた。結果、巌鉄は会場の外に出て、葬儀が終わるまで待つことにした。
日本という国には、どうにも回りくどい文化がある。本音と建前とでもいうべきか、このような時、直接的に「娘さんが亡くなって残念でしたね」なんて無粋な声かけは嫌われる。当たり障りのない挨拶をすると、頭を下げた。
「あの子、ようやく真面目に働きに出るようになっていたんです。それなのに……それなのに」
そこで言葉を失うと、改めて泣き崩れてしまう母親。旦那のほうが駆け寄ってきて「すいません。まだ心の整理が――」と、巌鉄含め周囲へと頭を下げた。
「なんかさ、発見されたのが……ラブホテルだったらしいよ」
「えー、でも千秋って男いなかったでしょ? あ、もしかしてウリ? あの子、高校の時も援交を……」
高校時代からの友人なのか、まるで泣き崩れた母親に追い討ちをかけんとばかりに、この場には一切不要のゴシップじみた話題を出す若い女性グループ。あえて声をひそめているように聞こえて、正直なところ気分が悪い。
「あらぁ、こんな時に不粋な話を持ち出してるから、どれだけ性格がブスな奴か見てやろうと思ったけど、残念なのは性格だけじゃなかったねぇ!」
会場に侵食する嫌な空気を切り裂くかのごとく、低い女性の声が響いた。ハスキーボイスというやつか。声のしたほうに視線をやると、喪服姿の女性が立ち上がっていた。鼻の通った端正な顔立ち。身長はおそらく巌鉄と同じくらいか。かなり高身長な女性だ。どうやら、先ほどの会話がどこから漏れてきていたのかは、声を上げた本人も分からないらしい。会場全体に向けてとばかりに声を上げた。
「人が死んでんだよ。誰にも言い返されないことをいいことにして、故人の悪口をわざわざ葬式で言う必要あるか? 言いたいなら一人で壁にでも向かって言っとけよ。どうしても我慢できないってなら、ここに来るな!」
どこか男勝りの口調に、式場は水を打ったかのように静まり返った。ちょうどタイミングを見計らったかのごとく、坊主が到着する。声を上げた女性は瞳に涙を一杯溜めて、しかしこぼすまいと強がりつつも、玄関から外に飛び出してしまった。
「こりゃ、葬式終わるまで待つしかねぇか」
坊主が来る前に線香だけでも――と思っていたが、その坊主が到着してしまい、あたりの空気も葬式独特の厳かな雰囲気になりつつある。この場でさっと線香だけ上がるなんて真似はできない。葬式に参加するにしても格好がラフすぎた。結果、巌鉄は会場の外に出て、葬儀が終わるまで待つことにした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる