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第二話 Q&A【事件編】

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「この度は……なんと言ったら良いか」

 日本という国には、どうにも回りくどい文化がある。本音と建前とでもいうべきか、このような時、直接的に「娘さんが亡くなって残念でしたね」なんて無粋な声かけは嫌われる。当たり障りのない挨拶をすると、頭を下げた。

「あの子、ようやく真面目に働きに出るようになっていたんです。それなのに……それなのに」

 そこで言葉を失うと、改めて泣き崩れてしまう母親。旦那のほうが駆け寄ってきて「すいません。まだ心の整理が――」と、巌鉄含め周囲へと頭を下げた。

「なんかさ、発見されたのが……ラブホテルだったらしいよ」

「えー、でも千秋って男いなかったでしょ? あ、もしかしてウリ? あの子、高校の時も援交を……」

 高校時代からの友人なのか、まるで泣き崩れた母親に追い討ちをかけんとばかりに、この場には一切不要のゴシップじみた話題を出す若い女性グループ。あえて声をひそめているように聞こえて、正直なところ気分が悪い。

「あらぁ、こんな時に不粋な話を持ち出してるから、どれだけ性格がブスな奴か見てやろうと思ったけど、残念なのは性格だけじゃなかったねぇ!」

 会場に侵食する嫌な空気を切り裂くかのごとく、低い女性の声が響いた。ハスキーボイスというやつか。声のしたほうに視線をやると、喪服姿の女性が立ち上がっていた。鼻の通った端正な顔立ち。身長はおそらく巌鉄と同じくらいか。かなり高身長な女性だ。どうやら、先ほどの会話がどこから漏れてきていたのかは、声を上げた本人も分からないらしい。会場全体に向けてとばかりに声を上げた。

「人が死んでんだよ。誰にも言い返されないことをいいことにして、故人の悪口をわざわざ葬式で言う必要あるか? 言いたいなら一人で壁にでも向かって言っとけよ。どうしても我慢できないってなら、ここに来るな!」

 どこか男勝りの口調に、式場は水を打ったかのように静まり返った。ちょうどタイミングを見計らったかのごとく、坊主が到着する。声を上げた女性は瞳に涙を一杯溜めて、しかしこぼすまいと強がりつつも、玄関から外に飛び出してしまった。

「こりゃ、葬式終わるまで待つしかねぇか」

 坊主が来る前に線香だけでも――と思っていたが、その坊主が到着してしまい、あたりの空気も葬式独特の厳かな雰囲気になりつつある。この場でさっと線香だけ上がるなんて真似はできない。葬式に参加するにしても格好がラフすぎた。結果、巌鉄は会場の外に出て、葬儀が終わるまで待つことにした。
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