ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
56 / 178
第二話 Q&A【事件編】

第二話 Q&A【事件編】1

しおりを挟む
【1】

 その儀式というものは、果たしていつから始まったのか。何を起源として、どこから広まったのか。ただひとつ確実に言えることは、言葉さえも通じない世界の各国で、しかし同じような儀式が繰り返されているということ。おそらくは人間が持つ本能的な側面から生まれた文化なのだろう。命を亡くしてしまった人を、遺されてしまった人が葬る。日本では荼毘に付すとも言われる儀式――葬式。

 この葬式の、悪い意味での特別感は好きではない。普段は滅多に顔を合わさぬ親戚が一堂に集まり、それこそ数年……十数年会いもしなかった、かつての親族を尊ぶ。生前付き合いのあった人間が弔問に訪れ、会場はひっそりとしながらも、ある種の祭りのような熱気をひしひしと帯びていた。

 一軒家の床間と座敷を貫いて作ったような会場には、黒一色の人々が集まっている。仕事の途中で抜け出し、せめて線香でも上げてやろうと考えた迂闊な自分を叱りつけてやりたい。格好が場違いすぎる。

 受付で香典を渡し、台帳に記帳をすると、すでに泣き腫らしたのであろう、目を真っ赤にした女性が顔を上げた。その顔には見覚えがあった。

「巌鉄さん。来てくれたんだ――」

 記憶が正しければ、まだ20代の前半だったはず。巌鉄は小さく頷くと「すまん、俺達の怠慢だ」と、そのまま頭を下げた。

「巌鉄さんはそもそも補導員でしょ? 謝ることはないよ」

 ニュアンス的に少し――いや、大いに違うのではあるが、補導員と言われても語弊はない。いちいち否定する場面でもないと考えた巌鉄は「そうなんだがな」と苦笑いを浮かべた。

「千秋お姉ちゃん。まだ手探りだけど、真っ当に生きたいって言ってたのに……」

 受付で涙を流すのは、加藤千春かとうちはるという。かつて彼女がちょっとばかり外れた道を歩もうとした際、首を突っ込んでお節介を焼いた相手だった。

「あぁ、本当に残念だよ」

 もう少し彼女と話をしたかったのであるが、後ろに弔問客が列を作り出したがゆえに、巌鉄は挨拶もそこそこに中へと入った。葬式に通して出席するつもりはない。坊主が来る前に線香だけ上げて帰るつもりだった。

「あぁ、いつぞやの時はどうも――」

 中に入るなり、喪服の女性が頭を下げてきた。巌鉄の顔を覚えていたのであろう。かくいう巌鉄も、でかでかと飾られた写真の主である加藤千秋かとうちあきの母親の顔は覚えていた。当時、千春と千秋は両親からの抑圧によって荒れていた。それを解決すべく、巌鉄が間に入って仲を取り持ったのだから、互いに覚えていて当然なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

『沈黙するグラス』 ~5つの視点が交錯する~

Algo Lighter
ミステリー
その夜、雨は静かに降り続けていた。 高級レストラン「ル・ソレイユ」で、投資家・南條修司が毒殺される。 毒はワインに仕込まれたのか、それとも——? 事件の謎を追うのは、探偵・久瀬真人。 彼はオーナー・藤倉俊介の依頼を受け、捜査を開始する。 最初に疑われたのは、料理長の高梨孝之。 だが、事件を深掘りするにつれ、違和感が浮かび上がる。 「これは、単なる復讐劇なのか?」 5人の視点で描かれる物語が、点と点をつなぎ、やがて驚愕の真実が浮かび上がる。 沈黙する証拠、交錯する思惑。 そして、最後に暴かれる"最も疑われなかった者"の正体とは——?

処理中です...