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第二話 Q&A【プロローグ】
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「ブブー。そんなわけないじゃん。お前は金で買われて、簡単に股を開く女だろう?」
言っていることに間違いはないのだが、その細い格好からは似つかわない野太い声が、本能的な恐怖を際立てる。
「愛を語ろうが、貞操観念があろうが、とどのつまり売女は売女。むしろ、売女がいまさらになって取り繕うんじゃない!」
危ない――と思った時には遅かった。ナタが振り下ろされ、とっさに逃がそうと思った手首に痛みが走った。もっとも、痛みよりも熱さのほうが先行したせいで、彼女自身、大したことではないと思っていた。そう、時間差でぽとりとベッドに転がった自分の手首を見るまでは。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
声が恐ろしさのあまり震えているのが自分でも分かる。涙が出る時は大抵自覚があるのだが、この時ばかりは気がついたら涙が溢れていた。
「そもそも、人間は本能的に異性を選ぶ生き物だ。つまり、その時は愛している相手でも、さらに秀でた相手が現れれば簡単に気がわりしてしまう。愛などというものは一過性に過ぎず、ならば愛する男に対してのみ股を開く女というのは、あくまでも理想でしかない。想像上の生き物ということだ」
何を言っているのか分からない。いや、何を言いたいのかが分からない。分かりたくもなかった。手首がなくなったと認識した途端、すっぱりと斬られてしまった断面が痛み始める。血も噴き出しているし、嫌でも悟ってしまう。多分、自分は死んでしまうだろう。
黒ローブは彼女のことなどお構いなしと言った具合に、大きな独り言を漏らし続ける。
「でっ、でも! ミサキお姉ちゃんだけは別だ! ミサキお姉ちゃんだけは違うんだ!」
手首がズキズキと痛み、信じられないほどの血が流れ続けている。売春を少しばかり舐めていたのかもしれない。こういう頭のおかしい奴を相手にしなければならないことを頭に入れておくべきだった。
「ミサキお姉ちゃん――どうして? どうして? どうして?」
ナタからは血が滴り、目出し帽から見える目は血走っていた。しかし、急に我に返ったかのごとく動きをぴたりと止めると、その口から淡々とした口調が飛び出した。
「それでは第二問。売女はこの世に存在することが許される。まるかばつか?」
意識が朦朧としてきた。多分、どう転んでも助かりはしないだろう。大体、その問題に正解できたところでどうなるというのか。
――命が尽きる。今、この世界から、ひとつの若き女性の命が奪われようとしていた。
言っていることに間違いはないのだが、その細い格好からは似つかわない野太い声が、本能的な恐怖を際立てる。
「愛を語ろうが、貞操観念があろうが、とどのつまり売女は売女。むしろ、売女がいまさらになって取り繕うんじゃない!」
危ない――と思った時には遅かった。ナタが振り下ろされ、とっさに逃がそうと思った手首に痛みが走った。もっとも、痛みよりも熱さのほうが先行したせいで、彼女自身、大したことではないと思っていた。そう、時間差でぽとりとベッドに転がった自分の手首を見るまでは。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
声が恐ろしさのあまり震えているのが自分でも分かる。涙が出る時は大抵自覚があるのだが、この時ばかりは気がついたら涙が溢れていた。
「そもそも、人間は本能的に異性を選ぶ生き物だ。つまり、その時は愛している相手でも、さらに秀でた相手が現れれば簡単に気がわりしてしまう。愛などというものは一過性に過ぎず、ならば愛する男に対してのみ股を開く女というのは、あくまでも理想でしかない。想像上の生き物ということだ」
何を言っているのか分からない。いや、何を言いたいのかが分からない。分かりたくもなかった。手首がなくなったと認識した途端、すっぱりと斬られてしまった断面が痛み始める。血も噴き出しているし、嫌でも悟ってしまう。多分、自分は死んでしまうだろう。
黒ローブは彼女のことなどお構いなしと言った具合に、大きな独り言を漏らし続ける。
「でっ、でも! ミサキお姉ちゃんだけは別だ! ミサキお姉ちゃんだけは違うんだ!」
手首がズキズキと痛み、信じられないほどの血が流れ続けている。売春を少しばかり舐めていたのかもしれない。こういう頭のおかしい奴を相手にしなければならないことを頭に入れておくべきだった。
「ミサキお姉ちゃん――どうして? どうして? どうして?」
ナタからは血が滴り、目出し帽から見える目は血走っていた。しかし、急に我に返ったかのごとく動きをぴたりと止めると、その口から淡々とした口調が飛び出した。
「それでは第二問。売女はこの世に存在することが許される。まるかばつか?」
意識が朦朧としてきた。多分、どう転んでも助かりはしないだろう。大体、その問題に正解できたところでどうなるというのか。
――命が尽きる。今、この世界から、ひとつの若き女性の命が奪われようとしていた。
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