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第一話 コレクター【エピローグ】
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「ここで間違いねぇはずだよな――」
この時代の連絡手段というものは限られている。携帯電話も普及していなければ、各家庭には固定の電話があるだけ。当たり前だが、固定の電話は持ち運べないため、相手が家にいる時限定でしか連絡が取れない。
坂田は路肩にバイクを寄せると、地図をしまって巌鉄から受け取ったメモをポケットから取り出す。そこには電話番号が記載されていた。平日の真っ昼間だから、ごくごく普通の人であれば、仕事をしているから、家にはいないだろうが。
とりあえず近くの公衆電話ボックスに入り、小銭を投入して電話をかけてみる。巌鉄から教えてもらった電話番号は、呼び出し音こそ鳴りはするが、しかし相手が電話に出ることはなかった。
「仕方ねぇ。ここで待つか――」
生来より気が短く、また短気の坂田にとって、待つという行為ほど、無駄で耐えられないものはない。けれども、坂田は待つことにしたのだ。いいや、待ってでも、その相手に会わなければ気が済まなかった。
時間が経つにつれて日は高くなり、そして、夕焼けを伴って徐々に沈み始める。閑静な住宅街は、そもそも人が行き交うことが少なく、ようやく学校帰りだと思われる子ども達の姿が見られるようになってきた。地域の子から「こんにちわ」なんて声をかけられた時、どうリアクションをしていいのか困る時がある。坂田はとっさに「おす」とだけ返し、明らかに子ども達から訝しげな目で見られてしまった。
とうとう日も落ちかけ、夜がやってくるというタイミングで、ようやく坂田は見つける。これまた、念のためにと巌鉄からもらっていた1枚の写真を確認する。やや化粧でケバ目ではあるが、間違いないようだった。いい歳をして、男と一緒のようだった。
「……よう」
坂田は道を塞ぐようにして立ちはだかる。男と腕を組んで笑顔を浮かべていた女が、明らかに不機嫌そうに言った。
「誰? あんた――」
男が女を守ろうと前に出てくる。坂田はすかさず拳を男の顔面に叩き込んだ。
「てめぇの息子の友達だよ」
何が起きたか分からない――そんな表情を浮かべる女に向かって地面を蹴ると、坂田は全体重をかけた一撃をお見舞いしてやった。文字通り吹き飛び、地面を2回、3回と転がる。坂田は舌打ちをすると、バイクにまたがった。
「わ……私が何をしたって――」
まだ分からないか。もう一度ぶん殴ってやろうかとも思ったが、しかし坂田はぐっと堪えて言い返してやった。
「何をしたかじゃなくてよ、何もしなかったんだろうが……。鐘は悪くねぇよ。鐘はよ」
吐き捨てるとバイクのエンジンをかける。坂田と楠野が共有したバイクのエンジン音は、今日ばかりは時折り、むせび泣くような情けない音を出すのであった。
この時代の連絡手段というものは限られている。携帯電話も普及していなければ、各家庭には固定の電話があるだけ。当たり前だが、固定の電話は持ち運べないため、相手が家にいる時限定でしか連絡が取れない。
坂田は路肩にバイクを寄せると、地図をしまって巌鉄から受け取ったメモをポケットから取り出す。そこには電話番号が記載されていた。平日の真っ昼間だから、ごくごく普通の人であれば、仕事をしているから、家にはいないだろうが。
とりあえず近くの公衆電話ボックスに入り、小銭を投入して電話をかけてみる。巌鉄から教えてもらった電話番号は、呼び出し音こそ鳴りはするが、しかし相手が電話に出ることはなかった。
「仕方ねぇ。ここで待つか――」
生来より気が短く、また短気の坂田にとって、待つという行為ほど、無駄で耐えられないものはない。けれども、坂田は待つことにしたのだ。いいや、待ってでも、その相手に会わなければ気が済まなかった。
時間が経つにつれて日は高くなり、そして、夕焼けを伴って徐々に沈み始める。閑静な住宅街は、そもそも人が行き交うことが少なく、ようやく学校帰りだと思われる子ども達の姿が見られるようになってきた。地域の子から「こんにちわ」なんて声をかけられた時、どうリアクションをしていいのか困る時がある。坂田はとっさに「おす」とだけ返し、明らかに子ども達から訝しげな目で見られてしまった。
とうとう日も落ちかけ、夜がやってくるというタイミングで、ようやく坂田は見つける。これまた、念のためにと巌鉄からもらっていた1枚の写真を確認する。やや化粧でケバ目ではあるが、間違いないようだった。いい歳をして、男と一緒のようだった。
「……よう」
坂田は道を塞ぐようにして立ちはだかる。男と腕を組んで笑顔を浮かべていた女が、明らかに不機嫌そうに言った。
「誰? あんた――」
男が女を守ろうと前に出てくる。坂田はすかさず拳を男の顔面に叩き込んだ。
「てめぇの息子の友達だよ」
何が起きたか分からない――そんな表情を浮かべる女に向かって地面を蹴ると、坂田は全体重をかけた一撃をお見舞いしてやった。文字通り吹き飛び、地面を2回、3回と転がる。坂田は舌打ちをすると、バイクにまたがった。
「わ……私が何をしたって――」
まだ分からないか。もう一度ぶん殴ってやろうかとも思ったが、しかし坂田はぐっと堪えて言い返してやった。
「何をしたかじゃなくてよ、何もしなかったんだろうが……。鐘は悪くねぇよ。鐘はよ」
吐き捨てるとバイクのエンジンをかける。坂田と楠野が共有したバイクのエンジン音は、今日ばかりは時折り、むせび泣くような情けない音を出すのであった。
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