ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

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第一話 コレクター【解決編】

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 銀山の暴走に加えて、マスターが警察に通報しなかったという事実は、楠野にとってプラスにしかならなかった。警察への通報が遅れてくれれば、それだけ楠野の痕跡も消えることになる。目玉の味を一度覚えてしまい、しかも知り合いの目玉がどれだけ美味なものであるかを知ってしまった以上、まだまだ捕まるわけにはいかなかった。

 銀山が馬鹿だったおかげで、その疑いは全面的に坂田へと向けられた。普段から素行が悪く、銀山に楯突いていた坂田が疑われるのは、なかば計算していたことではあったが、あまりにも上手くことが運んでくれるものだから、少しばかり怖くもなった。

 銀山達が総出で坂田を探し始める。楠野は坂田をサポートするという形をとりながら、しかし裏では坂田へと疑いが向くように仕向けていた。頃合いを見計らって警察にも連絡したが、そこで犯人は坂田であることを匂わせておいたのだ。坂田は素行が悪いおかげで、警察に何度も世話になっている。だから、坂田の名前を出せば、必然的に警察の疑いも坂田に向くのではないかと考えた。

 ――そう、上手くいっていたのだ。全てが上手くいっていたはずだった。まさか、嵌めようと思っていた坂田に嵌められる形になるまでは。

 あの口触りの悪かったコンタクトレンズ。紫衣流が眼鏡からコンタクトレンズに切り替えた絶妙なタイミングで、楠野は犯行に及んでしまったがゆえに、自らが犯人であることを露呈させてしまった。でも、まだ捕まるわけにはいかない。捕まるくらいなら、いっそのこと――。

 坂田が楠野のことを犯人だと名指しし、それを楠野が認めてから、どれくらいの時間が経っただろうか。まるで互いに金縛りにあったかのごとく、坂田と目を合わせたまま楠野は動かない。

「マスター。近くに交番があったはずだ。そこまでちょいと行って、応援を呼んできてくれないか? 巌鉄からの頼みだって言ってくれれば、話は通じると思う」

 自らが刑事だろうに、なんとも情けない男だ。応援がないと何もできないか。巌鉄の指示を受けても戸惑っている様子のマスターを「早くっ!」と急かす。マスターは慌てて店を飛び出して行った。

「おっさん、優しいなぁ。マスターに刺激の強い場面を見せたくねぇってか?」

 マスターが出て行った扉を眺めつつ、坂田はかすかに笑みを浮かべる。

「馬鹿言え。善良な市民様にはお見せできんだろ? 暴力刑事が大活躍する場面をな」

 その言葉と共に巌鉄の表情が変わった。いいや、雰囲気までもがだ。
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