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第一話 コレクター【解決編】

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 得てして、化け物が再び目覚めるきっかけというのは、実に下らなく、また意地の悪いものだったりする。

 ――目玉を模したグミ。海外のジョークグッズのようなものであり、口に含むとなんともいえない食感と味が広がるお菓子だった。皮肉なことに、これを楠野にくれたのが紫衣流だったのだから、もし神がいるのだとすれば容赦ないとしか思えない。試練などという可愛らしいものではない。

 何気なくそれを口に含んだ時、なんともいえぬ満足感があった。それはあくまでも擬似的なものであったが、恍惚感に近かったのかもしれない。そこで楠野は思い出してしまったのだ。かつて、自分のことを見向きすらしなかった母親の、その唯一無二の視線を独り占めした時の感覚を。多幸感に包まれ、ある種のオルガズムにも似た快楽を、思い出してしまったのである。

 目玉を形取ったお菓子だけで、ここまでの快楽を得ることができるのか。ならば、本物だったらさぞ――。代価品で済ませることができるのであれば、どれだけ良かったことだろうか。いや、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。

 誰かの視線を我が物にしたい。その根源を自らの中に取り込むことで、恍惚感に浸りたい。それがいっときだけの快楽であったとしても、実際にやってみたかった。クスリはやったことがなかったが、それに依存する人間の気持ちが、ほんの少しだけ分かったような気がした。

 内に秘めていた化け物が表へと出てからは早かった。しかしながら、いざ目玉を調達するといっても、生きている人間からくり抜くわけにはいかない。必然的に相手が死んでいる必要があり、すなわち殺す必要があった。となると、できる限りいなくなっても困らない人間。いなくなっても、心配されない人間のほうがいい。そういう意味で、雨立街は実にやりやすい街だった。

 雨立街には家出などをして、行き場を失った少年少女が集まる。それこそ、家出したとて家族も心配しない。そのような人間であれば、突然姿を消したとしても、しばらくは騒がれまい。

 頭ではもちろん分かっている。人を殺すということは良くないことだし、犯罪行為となってしまう。もちろん、警察に捕まってしまったら、刑務所行きは間違いない。そのリスクと、目玉を口に含んだ――食った時に得られるであろう快感は、等価で天秤が吊り合ってしまった。最終的には、捕まりさえしなければいい程度にしか思わなかった。そこまで、楠野を支配する異常な欲求は強かったのだ。
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