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第一話 コレクター【解決編】
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【2】
生まれてから施設に入るまで、楠野は母親と2人で暮らしていた。住んでいたのは、ろくに掃除すらされず、ゴミ袋が散乱する4畳一間のアパート。小汚い机の上には五百円玉が置かれ、それでなんとか凌ぐのが日課だった。
母親は夜の仕事をしていて、運良く帰ってきてくれても朝方であり、甘えたい年頃の楠野を放って寝るだけ。食事なんて作ってもらった記憶もなければ、母親の顔もまともに覚えていなかった。それでも、楠野にとって母親は母親であり、けなげながも母親のことが好きだった。
父と一緒に暮らしていた頃は、まだ息子として母親から見てもらえていたのかもしれない。しかし、離婚をして、母親が楠野のことを引き取ると、母親の目は他の男達ばかりに向けられるようになった。これから先、生きていくための生存本能としては正しかったのかもしれない。けれども、この境遇が彼を化け物へと変えてしまったのかもしれない。
自分を見て欲しかった。下手をすれば、五百円玉1枚だけで、1週間くらい帰ってこなかった母。男のところに入り浸り、たまに男と一緒に帰っては、邪魔だからと楠野をベランダの外へと追いやった母。それでも、子が親を慕う無償の愛のせいで、楠野はその生活に耐え続けていた。
どうやったら母親が自分のことを見てくれるのだろうか。悪いことをして捕まったら、さすがに母親だって血相を変えて飛んできてくれるに違いない。まだ小学校にさえ上がる前の幼子が、空腹をまぎらわし、また母親の気を引くために用いた手段は、万引きという名の犯罪だった。もちろん、簡単に店の人に見つかった。親も呼ばれることになったが、この時ばかりは嬉しかった。多少なりとも、母親が動いてくれる。自分という人間のために、わざわざ出向いてくれる。母親の気を引きたかった楠野にとって、このやり方は大成功――のはずだった。
しかし、店に楠野を引き取りにきた母親の第一声は「こんなことをする子は自分の子どもではない」という、責任逃れの言葉だった。店の事務所で楠野の顔を見るなり、大きく振りかぶってビンタしてきた母の顔は、今でも忘れない。きっと、店の人間の同情を誘いたかっただけなのであろうが、続けて罵詈雑言を浴びせてくる母の姿に――楠野は幼いながらも勃起していた。
見てくれた。自分のことを見てくれた。それは育児放棄という虐待を受けていた楠野にとって、非常に嬉しく――そして興奮するものでもあった。
他人の視線を自分のものにする。これが、化け物としての楠野が生まれたきっかけだ。
生まれてから施設に入るまで、楠野は母親と2人で暮らしていた。住んでいたのは、ろくに掃除すらされず、ゴミ袋が散乱する4畳一間のアパート。小汚い机の上には五百円玉が置かれ、それでなんとか凌ぐのが日課だった。
母親は夜の仕事をしていて、運良く帰ってきてくれても朝方であり、甘えたい年頃の楠野を放って寝るだけ。食事なんて作ってもらった記憶もなければ、母親の顔もまともに覚えていなかった。それでも、楠野にとって母親は母親であり、けなげながも母親のことが好きだった。
父と一緒に暮らしていた頃は、まだ息子として母親から見てもらえていたのかもしれない。しかし、離婚をして、母親が楠野のことを引き取ると、母親の目は他の男達ばかりに向けられるようになった。これから先、生きていくための生存本能としては正しかったのかもしれない。けれども、この境遇が彼を化け物へと変えてしまったのかもしれない。
自分を見て欲しかった。下手をすれば、五百円玉1枚だけで、1週間くらい帰ってこなかった母。男のところに入り浸り、たまに男と一緒に帰っては、邪魔だからと楠野をベランダの外へと追いやった母。それでも、子が親を慕う無償の愛のせいで、楠野はその生活に耐え続けていた。
どうやったら母親が自分のことを見てくれるのだろうか。悪いことをして捕まったら、さすがに母親だって血相を変えて飛んできてくれるに違いない。まだ小学校にさえ上がる前の幼子が、空腹をまぎらわし、また母親の気を引くために用いた手段は、万引きという名の犯罪だった。もちろん、簡単に店の人に見つかった。親も呼ばれることになったが、この時ばかりは嬉しかった。多少なりとも、母親が動いてくれる。自分という人間のために、わざわざ出向いてくれる。母親の気を引きたかった楠野にとって、このやり方は大成功――のはずだった。
しかし、店に楠野を引き取りにきた母親の第一声は「こんなことをする子は自分の子どもではない」という、責任逃れの言葉だった。店の事務所で楠野の顔を見るなり、大きく振りかぶってビンタしてきた母の顔は、今でも忘れない。きっと、店の人間の同情を誘いたかっただけなのであろうが、続けて罵詈雑言を浴びせてくる母の姿に――楠野は幼いながらも勃起していた。
見てくれた。自分のことを見てくれた。それは育児放棄という虐待を受けていた楠野にとって、非常に嬉しく――そして興奮するものでもあった。
他人の視線を自分のものにする。これが、化け物としての楠野が生まれたきっかけだ。
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