上 下
38 / 166
第一話 コレクター【事件編】

31

しおりを挟む
「まぁな。多分、こう聞けば一発だぜ。つまり紫衣流がお前のところに何か忘れ物してないか――ってな」

 忘れ物。銀山と交際していた紫衣流は、確か銀山と一緒に暮らしていたはずだった。そこに何を忘れたというのだろうか。しかも、それを確認するだけで犯人が分かるとは――なぜだろうか。

「おーい、坂田ちゃーん! 中にいるんだろ? 俺とちょっとお話しをしようや!」

 こちらが対応もせず、また反応も見せないものだから、あちらとしては面白くないのだろう。やや苛立った様子の銀山の声が飛んでくる。

「あいつ――そろそろ自分の立場ってもんを教えてやらねぇとなぁ」

 坂田はぽつりと漏らし、店の玄関に向かって歩き出す。そして、新山はもちろんのこと楠野達に断りさえ入れずに、勝手に玄関の鍵を開けた。その途端、扉が勢い良く開き、銀山がなだれ込むかのごとく店内に飛び込んでくる。

「坂田ちゃぁぁぁん! ちょっと、調子乗りすぎなんじゃねぇかぁぁぁぁ?」

 取り巻きの連中は解散してしまったのか、どうやら銀山は1人のようだった。もしかすると、今回の騒動で銀山から離れるやつが出始めたのかもしれない。坂田は銀山の放った拳を受け流すと、腰を捻ってカウンターで拳を銀山のボディに叩き込んだ。それはもう見事な一撃だった。

「そりゃ、こっちの台詞だわ」

 もろにボディを喰らった銀山は、何歩か後退しつつよろめき、そしてその場に片膝をついた。正直、銀山は人の上に立てる器ではない。面倒だからそういうことにしていたが、誰もが好んで銀山の下についたわけではなかった。坂田がそうだったように、銀山が勝手に自分の配下に置いたつもりになって、それを吹聴して回っていただけなのだ。むろん、本気で銀山の下についていた連中もいるだろうが、実のところハリボテというのが実情だった。そんなお山の大将の髪の毛を掴むと、無理矢理に銀山を立たせる坂田。

「――銀山、ひとつだけ教えろ。最近、紫衣流が何かを家に忘れて出掛けなかったか? 答えろ」

 坂田から反撃されると思っていなかったのか。それとも一撃があまりに大きかったのか。銀山は抵抗する素振りも見せずに、声を絞り出すようにして答えた。

「め――眼鏡をケースごと忘れて出かけたな」

 その言葉を聞くと、銀山の髪を掴んだまま床に叩きつける坂田。バランスを崩した銀山は、無様にも床に顔をぶつけた。踏んだり蹴ったりの銀山の頭を踏みつける坂田。

「くくっ……くくくくっ」

 坂田は噛み殺すような笑い声を漏らす。笑い方、気味が悪いからやめたほうがいいと、何度か坂田に忠告したことがあった。しかし、どうやら矯正はされていないようだ。

「ひゃーっはっはっは!」

 甲高い声で発せられる坂田の笑い声に、一同は呆気に取られるだけ。ひとしきり笑った坂田は「そうかぁ、やっぱりなぁ……」と漏らし、さらにこう続けたのであった。

「まぁ、俺ならもうちょっとスマートに殺るけどなぁ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

6人の容疑者

ぷりん
ミステリー
ある古本屋で、一冊の本が盗まれたという噂を耳にした大学生の楠木涼。 その本屋は普段から客が寄り付かずたまに客が来ても当たり前に何も買わずに帰っていくという。 本の値段も安く、盗む価値のないものばかりなはずなのに、何故盗まれたのか。 不思議に思った涼は、その本屋に行ってみようと思い、大学の帰り実際にその本屋に立ち寄ってみることにしたが・・・。 盗まれた一冊の本から始まるミステリーです。 良ければ読んでみてください。 長編になる予定です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...