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第一話 コレクター【事件編】

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「まぁな。多分、こう聞けば一発だぜ。つまり紫衣流がお前のところに何か忘れ物してないか――ってな」

 忘れ物。銀山と交際していた紫衣流は、確か銀山と一緒に暮らしていたはずだった。そこに何を忘れたというのだろうか。しかも、それを確認するだけで犯人が分かるとは――なぜだろうか。

「おーい、坂田ちゃーん! 中にいるんだろ? 俺とちょっとお話しをしようや!」

 こちらが対応もせず、また反応も見せないものだから、あちらとしては面白くないのだろう。やや苛立った様子の銀山の声が飛んでくる。

「あいつ――そろそろ自分の立場ってもんを教えてやらねぇとなぁ」

 坂田はぽつりと漏らし、店の玄関に向かって歩き出す。そして、新山はもちろんのこと楠野達に断りさえ入れずに、勝手に玄関の鍵を開けた。その途端、扉が勢い良く開き、銀山がなだれ込むかのごとく店内に飛び込んでくる。

「坂田ちゃぁぁぁん! ちょっと、調子乗りすぎなんじゃねぇかぁぁぁぁ?」

 取り巻きの連中は解散してしまったのか、どうやら銀山は1人のようだった。もしかすると、今回の騒動で銀山から離れるやつが出始めたのかもしれない。坂田は銀山の放った拳を受け流すと、腰を捻ってカウンターで拳を銀山のボディに叩き込んだ。それはもう見事な一撃だった。

「そりゃ、こっちの台詞だわ」

 もろにボディを喰らった銀山は、何歩か後退しつつよろめき、そしてその場に片膝をついた。正直、銀山は人の上に立てる器ではない。面倒だからそういうことにしていたが、誰もが好んで銀山の下についたわけではなかった。坂田がそうだったように、銀山が勝手に自分の配下に置いたつもりになって、それを吹聴して回っていただけなのだ。むろん、本気で銀山の下についていた連中もいるだろうが、実のところハリボテというのが実情だった。そんなお山の大将の髪の毛を掴むと、無理矢理に銀山を立たせる坂田。

「――銀山、ひとつだけ教えろ。最近、紫衣流が何かを家に忘れて出掛けなかったか? 答えろ」

 坂田から反撃されると思っていなかったのか。それとも一撃があまりに大きかったのか。銀山は抵抗する素振りも見せずに、声を絞り出すようにして答えた。

「め――眼鏡をケースごと忘れて出かけたな」

 その言葉を聞くと、銀山の髪を掴んだまま床に叩きつける坂田。バランスを崩した銀山は、無様にも床に顔をぶつけた。踏んだり蹴ったりの銀山の頭を踏みつける坂田。

「くくっ……くくくくっ」

 坂田は噛み殺すような笑い声を漏らす。笑い方、気味が悪いからやめたほうがいいと、何度か坂田に忠告したことがあった。しかし、どうやら矯正はされていないようだ。

「ひゃーっはっはっは!」

 甲高い声で発せられる坂田の笑い声に、一同は呆気に取られるだけ。ひとしきり笑った坂田は「そうかぁ、やっぱりなぁ……」と漏らし、さらにこう続けたのであった。

「まぁ、俺ならもうちょっとスマートに殺るけどなぁ」
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