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第一話 コレクター【事件編】

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「悪いな。最近、警察も捜査情報の取り扱いにうるさくなってきてな。あんまり目立つような真似はしたくないんだ」

 昼間のファミレスで、堂々と殺人事件の話をする。周囲はそれなりに騒がしいし、問題はないように思えるのだが――まぁ、巌鉄の顔を立ててやったほうがいいのだろう。巌鉄にならって、あからさまにボリュームを絞って楠野は答えた。

「見かけない顔っすね――。まぁ、雨立街には入れ替わり立ち替わりで、似たような格好、年頃の奴らが出入りしているから」

 楠野の返答に、巌鉄は「うーん。そうだろうなぁ」と腕を組む。しばらく考えたのち、短くなった煙草を灰皿で消しつつ口を開いた。

「やっぱりというか、今回の事件は厄介なことになりそうだ。どう考えたってまともな事件じゃねぇんだ」

「なんせ、シリアルキラーが相手だからなぁ」

 いつの間にか戻って来ていた坂田は、ドリンクバーに寄って来たらしい。グラスには黒に近い色の飲料が並々と入っており、忙しそうに気泡が上に向かっては弾けて消える。

「シリアルキラー?」

 楠野が首を傾げると、坂田は自分の席に着席。飲み物を一気に飲み干した。

「シリアルキラーってのは、殺人そのものが目的になってる頭がイカれたやつのことを指す。普通、人が人を殺すのには、それなりの理由――動機ってのが必要だ。だが、こいつらは人を殺すこと自体が動機になるから、一般的な事件より面倒なんだよ。殺す相手は誰でもいいわけだからな」

 そう言いながら煙草に火を点ける坂田。巌鉄に向かって「すぐに来ると思うぜ」と一言。どうやら【グラウンドゼロ】のマスターと連絡が取れたらしい。

「仁、随分と詳しいじゃねぇか」

 楠野の言葉に「こういう話、嫌いじゃねぇんだよ」と坂田。巌鉄はホットコーヒーのカップを片手に口を開く。

「坂田の言う通り、今回の被害者は雨立街にたまたま出入りしていた――という以外に目立った共通点がない。おそらくだが、犯人は無差別的に被害者を決めて襲っているみたいだ。さて、こうなると面倒なわけだ。下手をすると犯人は被害者とまるで面識すらねぇ可能性だってゼロじゃねぇ」

 そこまで巌鉄の言葉を聞いて、楠野は明確な矛盾を抱いた。

「ちょっと待った。仁の話だと、犯人は被害者と顔見知りの可能性が高いんだよな? だからこそ、被害者も気を許して、正面からブスリといかれてるわけで」

 楠野の疑問に、坂田が気味の悪い笑みを浮かべた。

「そこなんだよ、鐘。この事件の面白れぇところはよ」
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