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第一話 コレクター【事件編】

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【2】

 そろそろ時刻は正午を過ぎようとしていた。雨立街から離れたファミレスに入ったのが深夜。ドリンクバーのみで粘ってモーニングが始まるのを待って、朝食を食べた。そのモーニングにセットでついていたドリンクバーでさらに粘り、いよいよ昼まで居座ってやった。当たり前だが混み具合はピークを迎えようとしており、ドリンクのグラスしか見当たらないテーブルは、いささか肩身が狭くなってきた。懐事情は厳しいが、そろそろランチを頼むべきか。楠野は坂田の様子を伺いつつ、いつランチの提案をすべきか思案していた。

 雨立街から離れたおかげか、銀山達の姿はない。連中が幅を効かせることができるのは雨立街の中のみということ。テリトリーの外に出てしまえば、比較的安全ということか。

「それで、犯人が身内の人間だって言う根拠なんだが――」

 ファミレスに入ってからというもの、坂田が口にするのは例の事件のことばかりだ。直接的に坂田が発見者となってしまった紫衣流の事件はもちろんのこと、最近になって雨立街で起きている同様の手口の殺人事件についても、坂田は貪欲に情報を欲しがった。楠野は自分が知り得る情報を流してやったが、それを聞く坂田の目は、少年のように輝いていた。それには楠野も少しばかり引いてしまった。ふと、思い出したかのように坂田が根拠らしきものを話し出したものだから、どうやらランチの話は少しお預けらしい。楠野も坂田がそう思う根拠を知りたい。

「それは、殺されたやつの殺され方を見れば明らかだな」

 楠野はすっかり冷めてしまったコーヒーを口に運ぶ。冷えた苦さに顔をしかめつつ、坂田のほうへと改めて向き直る。

「殺され方って――鋭利なもので腹を刺されてるってところか?」

 楠野の問いに坂田は「まぁ、そんなところだ」と、ポケットから封の切れていない煙草を取り出した。この店に入ってから何本目の煙草かは分からないが、どうやら坂田は2箱目に突入したらしい。一応、少しずつ分煙化されつつあるファミレス内ではあるが、喫煙者のほうが圧倒的に多いせいか、店内はうっすらと白く見えた。

「紫衣流は腹をひと突きにされてたろ? あれから分かることはなんだと思う? つまり、犯人は紫衣流の懐に入っても不自然ではない人間。それだけ近づいても紫衣流に警戒されなかった人間ってことになる。それができるのは――紫衣流と顔見知りの人間だけだ」

 真っ先に思いついた人物の名前をかき消すかのごとく、楠野はある人物の名前を出す。

「例えば――銀山とか?」
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