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第一話 コレクター【事件編】

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「あの、もしかして……」

 巌鉄の反応から察したのか、やや恐る恐るといった具合で問うてくる倉科。自分では分からないだけで、はたから見ると険しい表情を浮かべていたのかもしれない。

「あぁ、その坂田ってやつとは、変に縁があってな。元から施設育ちのやつで実の親も分からねぇし、好き勝手に生きてきたせいだろう。喧嘩と煙草で何度もしょっぴいてやったことがあるんだが、本人はまるで反省しねぇ。喉元過ぎればなんとやらで、またすぐに悪さをしやがる。殺しもまぁ――あいつならやりかねんかもな」

 坂田仁とのイタチごっこは、今に始まったことではなかった。彼との出会いは数年前。たまたま街中で揉めていた若い連中を仲裁した時のことだった。もっとも仲裁に入った時点で、ほぼ決着はついていた。てっきり複数人同士での喧嘩だとばかり思っていたのだが、しかしどうやら1人対複数人の喧嘩だったらしい。そして、唯一最後まで立っていた、そのたった1人こそが坂田だ。

 それからというもの、仕事の現場で何度か坂田を見かけては、巌鉄がしょっぴいて説教というパターンが繰り返されていた。傷害の容疑で保護観察官つきとなった時、さっさと匙を投げてしまった保護観察官に代わって、坂田の保護司みたいなことをしたことだってある。

「まぁ、どっちにしろ、雨立街で起きた事件だからな。あいつから話を聞くつもりでもいたんだ。それにしても――あいつが本当に殺した? いや、まさかな」

 事件の概要を聞いて、巌鉄はほぼ確信していた。この事件は雨立街に近しい人間の仕業であると。

「まだ結論を出すのは早いんじゃないですか? 確かにガイシャは雨立街に出入りしていました。でも、だからといって雨立街の関係者が犯人だとは限りません。雨立街に出入りするのにパスポートが必要なわけじゃありませんし、部外者だって勝手に出入りできますから」

 もしかすると、巌鉄の呟きは、坂田を擁護しているように聞こえたのかもしれない。フォローのつもりなのか倉科が外部犯説をとなえてくれたが、残念ながらそれはありえないと思われる。

「部外者って可能性はゼロに等しいな。少なくとも、犯人は雨立街の関係者。しかも、それなりに雨立街でも顔の効く人間だろう。これまで殺された犠牲者の情報から統合的に考えても、まず部外者ってことは無ぇよ」

 巌鉄が指摘すると、倉科は慌てて資料に目を通して直す。やはり、まだまだ新人ということか。ご教授というわけではないが、ここは根拠を示してやるべきだろう。

「いいか倉科。明確な根拠があるんだよ――」
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