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第一話 コレクター【事件編】
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雨立街には、様々な店が立ち並んでいる。もちろん、中には善良というか、当たり前の商売をしている店もあるのだが、中には脱法ドラッグを取り扱うクラブやら、売春を斡旋している店など、印象のよろしくない店も多い。正直、雨立街という場所で商売をやっている時点で、どうしても穿った見方をしてしまう。
「5年か――。5年ってことは、真っ当な商売をしている店なんだろうな」
この雨立街において信用に足る店である証明。それは、どれだけの期間店をやっているかである。やましいことをやっている店は、摘発を逃れるために定期的に店名を変えたり、スタッフを総入れ替えしたりしている。ゆえに、街に定着はしないのである。逆に、店名が定着しているということは、それだけ真っ当な商売をしているということになるのだ。特に雨立街においては、とにかく店の入れ替わりが激しく、そもそも老舗が少ない。雨立街などいう治安の悪い場所に店を構えているのは、理解に苦しむのではあるが。
「そうみたいですね。どうやら、そこのマスターは、お金のない子ども達に無償で食事を提供する、いわゆる子ども食堂のようなこともやっているみたいで、雨立街に出入りする子ども達からは、大分慕われているみたいです」
ようやく渋滞を抜けるが、まだ車の動きは鈍かった。フロントガラスを雨が叩き始める。ワイパーを動かすと、巌鉄は口を開いた。
「いいなぁ。俺なんて、あそこに出入りするガキどもからは徹底して嫌われてるからなぁ。ちょっとは心を開いてくれてもいいのに」
少年課なんてものは、非行に走ろうとするお年頃――すなわち思春期のご多感な子ども達からすれば、実に面倒な相手だろう。下手を打てば補導されてしまうわけだし、間違っても好かれる立場ではない。
「……おい、倉科。今のとこ、笑うとこだぞ。刑事が犯罪者に好かれたいみたいなこと言ってるんだからよ」
倉科からの返答がなく、なんだか気まずい空気になったから、あえて笑いに変えようとする巌鉄。しかし慣れないことはしないほうがいいらしい。
「はっ、すいません。気をつけます!」
敬礼混じりで真面目に返されてしまい、なおさらに妙な空気が流れてしまう。この倉科という男、真面目なのは結構なのだが、真面目すぎるというか融通が効かないというか。きっちりとしている分、逆に仕事がやりにくそうだ。
「わ、分かってくれりゃいい。そ、それでなんだ――話がちょっと逸れたが、元に戻してくれ」
「5年か――。5年ってことは、真っ当な商売をしている店なんだろうな」
この雨立街において信用に足る店である証明。それは、どれだけの期間店をやっているかである。やましいことをやっている店は、摘発を逃れるために定期的に店名を変えたり、スタッフを総入れ替えしたりしている。ゆえに、街に定着はしないのである。逆に、店名が定着しているということは、それだけ真っ当な商売をしているということになるのだ。特に雨立街においては、とにかく店の入れ替わりが激しく、そもそも老舗が少ない。雨立街などいう治安の悪い場所に店を構えているのは、理解に苦しむのではあるが。
「そうみたいですね。どうやら、そこのマスターは、お金のない子ども達に無償で食事を提供する、いわゆる子ども食堂のようなこともやっているみたいで、雨立街に出入りする子ども達からは、大分慕われているみたいです」
ようやく渋滞を抜けるが、まだ車の動きは鈍かった。フロントガラスを雨が叩き始める。ワイパーを動かすと、巌鉄は口を開いた。
「いいなぁ。俺なんて、あそこに出入りするガキどもからは徹底して嫌われてるからなぁ。ちょっとは心を開いてくれてもいいのに」
少年課なんてものは、非行に走ろうとするお年頃――すなわち思春期のご多感な子ども達からすれば、実に面倒な相手だろう。下手を打てば補導されてしまうわけだし、間違っても好かれる立場ではない。
「……おい、倉科。今のとこ、笑うとこだぞ。刑事が犯罪者に好かれたいみたいなこと言ってるんだからよ」
倉科からの返答がなく、なんだか気まずい空気になったから、あえて笑いに変えようとする巌鉄。しかし慣れないことはしないほうがいいらしい。
「はっ、すいません。気をつけます!」
敬礼混じりで真面目に返されてしまい、なおさらに妙な空気が流れてしまう。この倉科という男、真面目なのは結構なのだが、真面目すぎるというか融通が効かないというか。きっちりとしている分、逆に仕事がやりにくそうだ。
「わ、分かってくれりゃいい。そ、それでなんだ――話がちょっと逸れたが、元に戻してくれ」
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