ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

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第一話 コレクター【事件編】

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 巌鉄の意向を理解したのか、倉科は慌てて運転席側を譲り、助手席のほうへと回った。巌鉄が乗り込んでシートベルトを締めると、持ってきた鞄の中からファイルを取り出す倉科。当たり前のごとく煙草をくわえると火を点けた巌鉄は、くわえ煙草のままパトカーのエンジンをかけた。

「ながらで聞くから始めてくれ」

 パトカーを発車させると、倉科の声が聞こえやすいように、やや無線のボリュームを絞った。最近はどうにも天気が悪い。今日もまた、緞帳を降ろしたかのごとく、厚い雲が空を覆っていた。

「はい、事件が起きたのは先月の初めでした。雨立街の路地にて少女の遺体が発見されました。被害者の名前は星野美香ほしのみかで16歳。数日前から自宅に帰っていませんでしたが、両親も慣れたもので、いつものことだと思っていたようです」

 失踪者というのは、それこそ警察が把握しているだけでも年間で数万人にのぼる。しかも、その中で事件に巻き込まれるような重大な案件は数件あるかないかだ。大抵が文字通りに家出人であり、自らの意思で失踪してしまった人間である。家に帰ったり、しばらく家を空けたり――そんなことを繰り返していた被害者を、両親は失踪したとも思っていなかったし、届出もしなかったようだ。両親からすれば寝耳に水だろう。いや、それは殺害された本人も同じか。

「遺体を発見したのは、近くで店を営んでいる【グラウンドゼロ】のオーナー。買出しの途中で、路地に横たわる被害者を発見し、警察に通報したそうです」

 少しずつ車の流れが悪くなってきた。これから向かうのは、この辺りでは一等地になる街の吹き溜まりだ。当然ながらの人の往来も多く、それに従って車も渋滞に巻き込まれてしまうわけだ。この辺りの人間ならば慣れっこではあるが。

「遺体の状態は? 争った様子はあったか?」

 この辺りのことに口を挟んでしまうのは、曲がりなりにも元捜査一課の人間だからであろう。今となっては昔とった杵柄というやつにすぎないのだろうが。

「着衣の乱れなどはなかったようですが、被害者の腹部に刺し傷が残っていました。執拗に何度も刺したみたいで、被害者の直接的な死因は出血多量による失血死だったみたいですね」

 資料をめくりながら状況を説明してくれる倉科。そこに巌鉄は付け加える。

「で、被害者がくたばった後に、犯人は目ん玉をくり抜いて持ち去った――か」
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