11 / 178
第一話 コレクター【事件編】
4
しおりを挟む
巌鉄の意向を理解したのか、倉科は慌てて運転席側を譲り、助手席のほうへと回った。巌鉄が乗り込んでシートベルトを締めると、持ってきた鞄の中からファイルを取り出す倉科。当たり前のごとく煙草をくわえると火を点けた巌鉄は、くわえ煙草のままパトカーのエンジンをかけた。
「ながらで聞くから始めてくれ」
パトカーを発車させると、倉科の声が聞こえやすいように、やや無線のボリュームを絞った。最近はどうにも天気が悪い。今日もまた、緞帳を降ろしたかのごとく、厚い雲が空を覆っていた。
「はい、事件が起きたのは先月の初めでした。雨立街の路地にて少女の遺体が発見されました。被害者の名前は星野美香で16歳。数日前から自宅に帰っていませんでしたが、両親も慣れたもので、いつものことだと思っていたようです」
失踪者というのは、それこそ警察が把握しているだけでも年間で数万人にのぼる。しかも、その中で事件に巻き込まれるような重大な案件は数件あるかないかだ。大抵が文字通りに家出人であり、自らの意思で失踪してしまった人間である。家に帰ったり、しばらく家を空けたり――そんなことを繰り返していた被害者を、両親は失踪したとも思っていなかったし、届出もしなかったようだ。両親からすれば寝耳に水だろう。いや、それは殺害された本人も同じか。
「遺体を発見したのは、近くで店を営んでいる【グラウンドゼロ】のオーナー。買出しの途中で、路地に横たわる被害者を発見し、警察に通報したそうです」
少しずつ車の流れが悪くなってきた。これから向かうのは、この辺りでは一等地になる街の吹き溜まりだ。当然ながらの人の往来も多く、それに従って車も渋滞に巻き込まれてしまうわけだ。この辺りの人間ならば慣れっこではあるが。
「遺体の状態は? 争った様子はあったか?」
この辺りのことに口を挟んでしまうのは、曲がりなりにも元捜査一課の人間だからであろう。今となっては昔とった杵柄というやつにすぎないのだろうが。
「着衣の乱れなどはなかったようですが、被害者の腹部に刺し傷が残っていました。執拗に何度も刺したみたいで、被害者の直接的な死因は出血多量による失血死だったみたいですね」
資料をめくりながら状況を説明してくれる倉科。そこに巌鉄は付け加える。
「で、被害者がくたばった後に、犯人は目ん玉をくり抜いて持ち去った――か」
「ながらで聞くから始めてくれ」
パトカーを発車させると、倉科の声が聞こえやすいように、やや無線のボリュームを絞った。最近はどうにも天気が悪い。今日もまた、緞帳を降ろしたかのごとく、厚い雲が空を覆っていた。
「はい、事件が起きたのは先月の初めでした。雨立街の路地にて少女の遺体が発見されました。被害者の名前は星野美香で16歳。数日前から自宅に帰っていませんでしたが、両親も慣れたもので、いつものことだと思っていたようです」
失踪者というのは、それこそ警察が把握しているだけでも年間で数万人にのぼる。しかも、その中で事件に巻き込まれるような重大な案件は数件あるかないかだ。大抵が文字通りに家出人であり、自らの意思で失踪してしまった人間である。家に帰ったり、しばらく家を空けたり――そんなことを繰り返していた被害者を、両親は失踪したとも思っていなかったし、届出もしなかったようだ。両親からすれば寝耳に水だろう。いや、それは殺害された本人も同じか。
「遺体を発見したのは、近くで店を営んでいる【グラウンドゼロ】のオーナー。買出しの途中で、路地に横たわる被害者を発見し、警察に通報したそうです」
少しずつ車の流れが悪くなってきた。これから向かうのは、この辺りでは一等地になる街の吹き溜まりだ。当然ながらの人の往来も多く、それに従って車も渋滞に巻き込まれてしまうわけだ。この辺りの人間ならば慣れっこではあるが。
「遺体の状態は? 争った様子はあったか?」
この辺りのことに口を挟んでしまうのは、曲がりなりにも元捜査一課の人間だからであろう。今となっては昔とった杵柄というやつにすぎないのだろうが。
「着衣の乱れなどはなかったようですが、被害者の腹部に刺し傷が残っていました。執拗に何度も刺したみたいで、被害者の直接的な死因は出血多量による失血死だったみたいですね」
資料をめくりながら状況を説明してくれる倉科。そこに巌鉄は付け加える。
「で、被害者がくたばった後に、犯人は目ん玉をくり抜いて持ち去った――か」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる