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第一話 コレクター【事件編】

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 わざわざ彼が会議に招集された理由。それは、雨立街にてスムーズに聞き込みを行うためらしい。まぁ、素直に話を聞いてくれるような聞き分けの良い子はいないだろうから、気持ちは分からなくない。そのために動員されたわけか。妙に納得できてしまう。

「とにかく事件を洗い直す。そのためにも情報が欲しい。ささいなことでも構わん。片っ端から情報をかき集めろ。それでは解散」

 捜査本部長の音頭で、一斉に会議室が騒がしくなる。捜査員達は自分達がやるべきことを捜査本部に向かって告げると、足早に会議室を出ていく。捜査の方針さえ決めたら、やり方は現場任せというのは、いい加減やめたほうがいい。まぁ、余計なお世話なのだろうが。

「新人は少年課と組んで、雨立街の聞き込みに回れ」

 次々と捜査員が会議室を後にするなか、周囲を見回すばかりだった、明らかに挙動不審な男。齢はまだ30代前半といったところか。新人という割にはフレッシュさがない。あまり見ない顔だ。男は指示を出された通り、彼のところまでやってくると、敬礼をする。刑事で挨拶代わりに敬礼をするのは、ドラマの中だけの話だ。その仕草だけで新人であることが伺える。

「研修にて、しばらくこちらにお世話になります! 倉科重道くらしなしげみち巡査であります!」

 敬礼は挨拶代わりに使わない――という指導をすること自体が面倒だった彼は、軽く敬礼をして返した。

「巡査ってことは……キャリアでもないのに研修スタートか。最近の新人は大変だなぁ。まぁ、新卒ってわけじゃなさそうだし仕方ないのか」

 彼の言葉に「その辺りのことは良く分かりませんが、ご指導のほど、よろしくお願いします!」と倉科。続けて口を開く。

「あの、なんとお呼びしたら――」

 そういえば名乗っていなかった。少し考えてから彼は口を開いた。

「そうだな……。巌鉄がんてつでいい。これでも本名なんだぜ。すげぇ名前だろ? これから聞き込みに行く雨立街でも、その名前で通ってるからよ」

 彼が立ち上がると、倉科が改めて敬礼をし「よろしくお願いします! 巌鉄先輩!」と声をあげる。どうにも体育会系のノリが染み付いているようだ。悪い気はしないが。

「あぁ、よろしくな、倉科。これから向かうところは、ちょっとばかり治安が悪いからよ。覚悟決めとけよ」

 倉科は「はい!」と威勢の良い返事をし、続けて「パトカーを回してきます!」と、嬉々としながら会議室を出て行った。

「――ありゃ、まだ警察の現実ってもんを知らない顔だな。警察だって組織に違いはないし、組織ともなれば、理不尽なしがらみやらが嫌でもまとわりついてくる。あぁいう奴ほど、腐らねぇで踏ん張って欲しいんだがなぁ」

 巌鉄の独り言に、残っていた捜査本部長が、わざとらしく視線を外した。まだ巌鉄自身も30代だというのに、あまりにも年寄りくさい発言をしてしまったこと驚く。
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