ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

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第一話 コレクター【プロローグ】

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「鐘、ちっと手を貸せや」

 塀から路地へと飛び降りると、いまだに塀の向こう側で喚いている銀山の声に坂田は苦笑い。たかだか塀ひとつを隔てているだけだが、入り組んだこの街では、一度逃した坂田を再び追い詰めることは難しいだろう。

「――その顔、何か企んでるだろ?」

 坂田の横顔を見た楠野が、煙草をポケットから取り出して一本くわえる。ライターで火を点けると雨が当たらないようにするためかキャップをかぶりなおした。坂田は煙草を吸う仕草を楠野に見せることにより、楠野から煙草を一本略奪すること成功。ちょろいものだ。

「紫衣流の殺され方……。ぱっと見ただけだが、手口が妙に似てんだよ。最近、テレビでも話題になってる連続殺人にな。確か、割りかし近場で起きてたはずだ」

 雨を避けるために、たまたまあった商店の幌の下に入ると、改めて楠野からライターを受け取る。

「最近、テレビで騒がれてるって言ったらあれか――。目玉がくり抜かれた死体が見つかってるって言う事件か。確か、マスコミが【コレクター】だとか名前をつけてたわ。ってか、お前もニュース観るんだな」

「ニュースだけじゃねぇ。教育テレビも観る」

 そう、今世間を賑わせている頭のおかしい連続殺人。死体の目玉が必ず現場から持ち去れているという猟奇性の強い事件をマスコミが放っておくわけがなく、挙句に【コレクター】とまで名前をつけて報じていた。

「そ、そうか――。それで、その【コレクター】がどうしたんだ?」

 久方ぶりにといっても数時間ぶりに吸った煙草は、えらく美味かった。坂田は深く紫煙を吸い込むと、小さく笑みを浮かべた。

「サツより先に見つけて半殺しにする。そいつのせいで銀山から追いかけ回されてんだ。せめて一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇ」

 坂田の言葉に吹き出す楠野。

「お前といると本当に退屈しなくていいわ」

 坂田は煙草を片手に「だろ?」と返した。別に【コレクター】に恨みはないが、そいつのせいで面倒なことになってしまった。やり返しても文句は言われまい。

「じゃあ、まずはどうすんだ?」

 坂田が煙草を吸い終え、改めて路地裏を歩き始めた2人。

 これは、ある男とある男の物語。いずれ両名の名を取って【ジンクス】と呼ばれることになる2人組の物語となる。

 後の九十九殺しが、まだ人間だった頃の物語でもある。
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