上 下
6 / 178
第一話 コレクター【プロローグ】

6

しおりを挟む
 壁を蹴って飛ぶと、楠野が伸ばした手を掴む坂田。銀山を筆頭として、坂田の間近に追っ手が迫る。

「じゃあ誰が殺ったってんだよ!」

 楠野の手を掴むと、反動を利用して壁を蹴り、さらに高く飛ぶ。引き上げる役割のはずの楠野が、やや坂田に振り回されるような形だ。坂田の意外な動きに翻弄された様子を見せながらも、その手は離さない楠野。銀山の言葉に対して首を傾げた。

「さぁ……誰なんでしょうね? でもまぁ、疑わしきは罰せずというか、勝手に坂田を悪者にして潰そうってのはよろしくないかと」

 楠野が手引きをしてくれたおかげで、高い塀を飛び越えることができた坂田。塀の向こう側には、またしても入り組んだ路地裏が広がっている。ただ、回り込むにも時間がかかるから、実質的に危機を脱したことにはなるだろう。塀から眺める連中の姿は、まるでゾンビ映画で生きた人間に群がろうとするゾンビのようだった。

「くそっ! お前ら俺に楯突いたらどうなるのか分かってんだろうなぁ! 楠野、お前――俺を裏切んのか!」

 銀山の脅し文句に楠野は小さく溜め息をついた。

「銀山さん。最近のあんた、ダサいですよ。前はもうちょっとイケてたのに。まぁ、勝手にこの界隈に入り込んだくせに、仲間引き連れて坂田のことを邪険にしてた時点で、どうかとは思ってましたけど」

 楠野はそう言うと、中指を立ててみせた。

「これが俺の答えですよ。銀山さん。あんた、人の上に立てる器じゃないよ」

 大勢の人間を引き連れていた銀山からすれば、これほどまでにプライドを揺さぶられる言葉はないだろう。

「楠野ぉぉ! てめぇぇぇぇぇ!」

 銀山が顔を真っ赤にしたところで、聞き慣れたサイレン音が聞こえる。それは赤色灯を伴って街に近づいてきた。

「――俺が呼んだんだよ。どうせあいつらことだから、紫衣流ちゃんの件、警察に通報してねぇだろ? そこまで頭が回らねぇだろうし」

 そう言うと塀から飛び降りる楠野。坂田も無言で銀山に対して中指を立ててやると、楠野に続いた。

「じきにこの辺りもサツだらけになる。これで、しばらくあいつらも自由に身動きはできなくなるだろうよ」

 残酷な形で銀山の女が殺された。一般的な発想であれば、すぐにでも警察に通報するようなものだが、銀山達はむしろ警察のことを毛嫌いしているから、通報するという発想自体がなかったことだろう。

「……まぁ、サツもあてにできねぇがな」

 警察に対する印象がよろしくないのは坂田も同じだった。だから警察に全てを任せてはおけない。いいや、正直なところ腹が立っていた。別に銀山の女と親しかったわけではないし、仲間意識があったからでもない。ただ純粋に、自分が疑われたという事実に対して腹が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

処理中です...