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第六話
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サキュバスであるリディアリアよりも放漫な胸に、どこか色気のある喋り方。サキュバスとしてどこか負けたような気がして、失礼なことをいわれたことよりもムっとしてしまう。
しかしルナは失礼な物言いに腹を立てたようで、リディアリアを庇うように前に出ると、スノウの女性を睨み付けた。
「身分をわきまえなさい。リディアリア様は、ディティラス様が唯一妃として認めたお方でもあるのよ。身分は魔王様と同等。いくら上級魔族で最近王都にやってきたからといっても、失礼は許さないわ」
人族と違って、魔族には公爵や伯爵等の爵位は存在しない。しかしそれに代わる身分が魔王を筆頭にして存在している。
魔族は完全実力主義で、実力の高い者から、魔王、七貴族、上級魔族、中級魔族、下級魔族と呼ばれる。血筋や種族関係なく、上を目指せることができるのが魔族の世界なのだ。唯一例外なのが、魔王の妃と呼ばれる存在。つまりはリディアリアだ。
魔王の妃はどれだけ階級が低くとも、選ばれれば魔王と同等に扱われる。だからこそ、半端な実力では反感を招くし、何より七貴族全員の了承をもらわなければならない。どうすれば反感をなるべく買わず、七貴族の全員の了承をもらうか。リディアリアが眠りにつく前、ディティラスとどうすれば一緒にいられるかを考えていたのはそのせいでもあった。
「へえ……。貴女がディティラス様の」
まるで蔑むような言葉と態度に、ルナが一歩踏み出す。
「ルナ、待って」
ここでルナの力を振りかざせば、ここは瓦礫の山と化してしまうだろう。だからリディアリアはルナの服の裾は引っ張り、歩みを止めさせた。
バランスを崩さないよう、ゆっくりとスノウの女性の前まで歩いていく。
「私はリディアリア。魔王ディティラスの妃です。名前をお伺いしても?」
いつものような身内に喋る話し方ではなく、上に立つ者として、ディティラスが恥じない話し方で、名前を尋ねる。
リディアリアの名前を聞くと、スノウの女性は途端に勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「やはり、貴女があの眠り姫でしたか」
やけに『あの』を強調してくるスノウの女性。そして目上であるはずのリディアリアが先に名乗ったにも関わらず、名乗りもしない。これは教育が云々というよりも、ただ舐められているのだろう。
リディアリアの長所はすぐに物事をポジティブに考えること。そして短所は喧嘩早いこと。そう自覚している。だからこそ、売られた喧嘩は必然的にいつも買っていた。
「あの、が何を意味するのか分かりませんが、おそらくそうでしょうね。名乗る気がないのなら、道を開けていただけます? 私はディティに用がありますので」
おそらくこういった女性は、自分が優位に立っていないと気が済まないタイプだ。権力はもちろんのこと、魔力や顔、体格、全てに置いてディティラスは優れていたから、いつも周囲には女性が群がっていた。散々昔にそんな女性たちの対応をやってのけたのだ。これぐらい朝飯前である。
案の定、ディティラスのことを愛称で呼んだリディアリアに対して、嫉妬の眼差しを向けてきた。
「ライトニング様が義父だからと図々しい。ディティラス様のこと、気安く呼ばないでいただきます? 将来は私の旦那様になる予定なのですから」
(……はい?)
謎の発言をするスノウの女性に、思わず声を失ってしまう。
スノウの女性はルナが上級魔族だといっていたから、それなりの実力はあるのだろうと判断できる。しかしそれだけでは魔王の妃には到底なれはしない。それにリディアリアという妃がすでにいるのだ。人族と違って魔族は一夫一妻制。妃になる可能性は皆無である。
だというのに、この謎の発言と余裕な態度。おかしいのは一目瞭然である。
「私、お父様から、現在の妃は体の弱い、ただの飾り妃だとお聞きしましたの。ですから、貴女がどういおうと飾り以外の何者でもありませんわ」
(なるほど、そうきたか……)
スノウは氷に囲まれた場所に好んで住む。だから必然と、情報が行き届かないことが多い。
「貴女はいつからこちらにいらっしゃったの?」
「私が十七の時ですから、三年前ですわね。それが何か関係があって?」
(三年前、それならこの情報量にも頷けるわ)
三年前ならば、すでに復興もほぼ終盤に差し掛かっていたに違いない。それに彼女も彼女の父親も、リディアリア自身の魔族階級すら知らないとみた。彼女が知っているのは、リディアリアの義父、ライトニングが魔王に次ぐ階級を持っていることぐらいだろう。
知っていたなら、彼女がこんなにも強気に出てくるわけがないからだ。
「ということは、貴女は十年前まだ十歳の幼子だったのね」
「先程からなんなんですの! そんなこと、今関係ありまして?」
確認、というよりは納得する意味合いで口に出したのだが、それが彼女の琴線に触れてしまったらしい。美しい顔に怒りを現す。
彼女はすぐ手をあげたが、その手をあげた先で、他の誰かに手を掴まれてしまう。
「邪魔しないでくださいま……し?」
邪魔をされた彼女は、怒りの矛先を止めた者へと向け、視線と一緒に投げかける。しかし止めた人物が思いもよらなかった者だったからか、語尾が小さくなっていくと同時に、顔を青ざめさせた。
「ディティ」
「扉前が騒がしいと思って見に来てみれば。これはどういうことだ」
扉を守っていた騎士に説明することを命令する。ディティラスの表情はリディアリアといた時と違って、無表情。それがどこか威圧しているかのように見えた。
しかしこの表情のディティラスをリディアリアは数度見たことがある。それは今と同じように、リディアリアがディティラスのことで女性に絡まれたときだ。
その時にリディアリアは思ったのだ。
触らぬディティラスに祟りなし、と。
騎士の説明を聞き、ディティラスの纏う空気がさらに鋭くなる。手首を掴まれた女性は、ディティラスの誤解を解こうと必死だが、女性の戯言に耳を傾けるディティラスではない。女性の手首を乱暴に手放した後、ディティラスはリディアリアを優しく抱きかかえた。
「リディ、中々来ないから心配をした」
リディアリアを映す赤の瞳は、先程とは打って変わって蕩けるように優しい。
「ごめん」
遅くなったのは、リディアリアが喧嘩を買ってしまったせいでもあるので、素直に謝ることにした。
「まあいい。どうせ、喧嘩を買ったんだろう?」
「う……」
どうやら全てお見通しのようだ。視線をディティラスから逸らすリディアリアに、ディティラスが苦笑をした。
リディアリアを抱いたまま、廊下に背を向けて部屋の中へと歩みを進める。その途中、ディティラスが歩みを止めると、騎士に命令を下した。
「おい、スノウマリーをここから連れていけ」
どうやらスノウの女性の名前はスノウマリーというらしい。
「なっ、どうかお考えなおしてください、ディティラス様! そのお方はずっと眠っていただけの方。妃に迎えるのなら、他にも素晴らしい方がいらっしゃいますわ」
スノウマリーのいうことにも一理ある。魔王の妃に迎えるのなら、リディアリアでなくても、ふさわしい者は何人かいるだろう。しかしディティラスが選んだのは、リディアリアただ一人。まだリディアリア自身、妃にふさわしいとは思っていない。
けれどディティラス自身がリディアリアを選んでくれたのだ。だからふさわしくなるように努力はするつもりだし、誰にも譲る気はない。
例え、余命が半年しかなくても――だ。
「俺の妃はただ一人。リディアリアしかいない。それはお前でも誰でもなく、俺自身が決めることだ。口出しすることは許さない」
ディティラスはそう告げると、後ろを振り返ることもせず、そのまま部屋の中へと入っていった。
しかしルナは失礼な物言いに腹を立てたようで、リディアリアを庇うように前に出ると、スノウの女性を睨み付けた。
「身分をわきまえなさい。リディアリア様は、ディティラス様が唯一妃として認めたお方でもあるのよ。身分は魔王様と同等。いくら上級魔族で最近王都にやってきたからといっても、失礼は許さないわ」
人族と違って、魔族には公爵や伯爵等の爵位は存在しない。しかしそれに代わる身分が魔王を筆頭にして存在している。
魔族は完全実力主義で、実力の高い者から、魔王、七貴族、上級魔族、中級魔族、下級魔族と呼ばれる。血筋や種族関係なく、上を目指せることができるのが魔族の世界なのだ。唯一例外なのが、魔王の妃と呼ばれる存在。つまりはリディアリアだ。
魔王の妃はどれだけ階級が低くとも、選ばれれば魔王と同等に扱われる。だからこそ、半端な実力では反感を招くし、何より七貴族全員の了承をもらわなければならない。どうすれば反感をなるべく買わず、七貴族の全員の了承をもらうか。リディアリアが眠りにつく前、ディティラスとどうすれば一緒にいられるかを考えていたのはそのせいでもあった。
「へえ……。貴女がディティラス様の」
まるで蔑むような言葉と態度に、ルナが一歩踏み出す。
「ルナ、待って」
ここでルナの力を振りかざせば、ここは瓦礫の山と化してしまうだろう。だからリディアリアはルナの服の裾は引っ張り、歩みを止めさせた。
バランスを崩さないよう、ゆっくりとスノウの女性の前まで歩いていく。
「私はリディアリア。魔王ディティラスの妃です。名前をお伺いしても?」
いつものような身内に喋る話し方ではなく、上に立つ者として、ディティラスが恥じない話し方で、名前を尋ねる。
リディアリアの名前を聞くと、スノウの女性は途端に勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「やはり、貴女があの眠り姫でしたか」
やけに『あの』を強調してくるスノウの女性。そして目上であるはずのリディアリアが先に名乗ったにも関わらず、名乗りもしない。これは教育が云々というよりも、ただ舐められているのだろう。
リディアリアの長所はすぐに物事をポジティブに考えること。そして短所は喧嘩早いこと。そう自覚している。だからこそ、売られた喧嘩は必然的にいつも買っていた。
「あの、が何を意味するのか分かりませんが、おそらくそうでしょうね。名乗る気がないのなら、道を開けていただけます? 私はディティに用がありますので」
おそらくこういった女性は、自分が優位に立っていないと気が済まないタイプだ。権力はもちろんのこと、魔力や顔、体格、全てに置いてディティラスは優れていたから、いつも周囲には女性が群がっていた。散々昔にそんな女性たちの対応をやってのけたのだ。これぐらい朝飯前である。
案の定、ディティラスのことを愛称で呼んだリディアリアに対して、嫉妬の眼差しを向けてきた。
「ライトニング様が義父だからと図々しい。ディティラス様のこと、気安く呼ばないでいただきます? 将来は私の旦那様になる予定なのですから」
(……はい?)
謎の発言をするスノウの女性に、思わず声を失ってしまう。
スノウの女性はルナが上級魔族だといっていたから、それなりの実力はあるのだろうと判断できる。しかしそれだけでは魔王の妃には到底なれはしない。それにリディアリアという妃がすでにいるのだ。人族と違って魔族は一夫一妻制。妃になる可能性は皆無である。
だというのに、この謎の発言と余裕な態度。おかしいのは一目瞭然である。
「私、お父様から、現在の妃は体の弱い、ただの飾り妃だとお聞きしましたの。ですから、貴女がどういおうと飾り以外の何者でもありませんわ」
(なるほど、そうきたか……)
スノウは氷に囲まれた場所に好んで住む。だから必然と、情報が行き届かないことが多い。
「貴女はいつからこちらにいらっしゃったの?」
「私が十七の時ですから、三年前ですわね。それが何か関係があって?」
(三年前、それならこの情報量にも頷けるわ)
三年前ならば、すでに復興もほぼ終盤に差し掛かっていたに違いない。それに彼女も彼女の父親も、リディアリア自身の魔族階級すら知らないとみた。彼女が知っているのは、リディアリアの義父、ライトニングが魔王に次ぐ階級を持っていることぐらいだろう。
知っていたなら、彼女がこんなにも強気に出てくるわけがないからだ。
「ということは、貴女は十年前まだ十歳の幼子だったのね」
「先程からなんなんですの! そんなこと、今関係ありまして?」
確認、というよりは納得する意味合いで口に出したのだが、それが彼女の琴線に触れてしまったらしい。美しい顔に怒りを現す。
彼女はすぐ手をあげたが、その手をあげた先で、他の誰かに手を掴まれてしまう。
「邪魔しないでくださいま……し?」
邪魔をされた彼女は、怒りの矛先を止めた者へと向け、視線と一緒に投げかける。しかし止めた人物が思いもよらなかった者だったからか、語尾が小さくなっていくと同時に、顔を青ざめさせた。
「ディティ」
「扉前が騒がしいと思って見に来てみれば。これはどういうことだ」
扉を守っていた騎士に説明することを命令する。ディティラスの表情はリディアリアといた時と違って、無表情。それがどこか威圧しているかのように見えた。
しかしこの表情のディティラスをリディアリアは数度見たことがある。それは今と同じように、リディアリアがディティラスのことで女性に絡まれたときだ。
その時にリディアリアは思ったのだ。
触らぬディティラスに祟りなし、と。
騎士の説明を聞き、ディティラスの纏う空気がさらに鋭くなる。手首を掴まれた女性は、ディティラスの誤解を解こうと必死だが、女性の戯言に耳を傾けるディティラスではない。女性の手首を乱暴に手放した後、ディティラスはリディアリアを優しく抱きかかえた。
「リディ、中々来ないから心配をした」
リディアリアを映す赤の瞳は、先程とは打って変わって蕩けるように優しい。
「ごめん」
遅くなったのは、リディアリアが喧嘩を買ってしまったせいでもあるので、素直に謝ることにした。
「まあいい。どうせ、喧嘩を買ったんだろう?」
「う……」
どうやら全てお見通しのようだ。視線をディティラスから逸らすリディアリアに、ディティラスが苦笑をした。
リディアリアを抱いたまま、廊下に背を向けて部屋の中へと歩みを進める。その途中、ディティラスが歩みを止めると、騎士に命令を下した。
「おい、スノウマリーをここから連れていけ」
どうやらスノウの女性の名前はスノウマリーというらしい。
「なっ、どうかお考えなおしてください、ディティラス様! そのお方はずっと眠っていただけの方。妃に迎えるのなら、他にも素晴らしい方がいらっしゃいますわ」
スノウマリーのいうことにも一理ある。魔王の妃に迎えるのなら、リディアリアでなくても、ふさわしい者は何人かいるだろう。しかしディティラスが選んだのは、リディアリアただ一人。まだリディアリア自身、妃にふさわしいとは思っていない。
けれどディティラス自身がリディアリアを選んでくれたのだ。だからふさわしくなるように努力はするつもりだし、誰にも譲る気はない。
例え、余命が半年しかなくても――だ。
「俺の妃はただ一人。リディアリアしかいない。それはお前でも誰でもなく、俺自身が決めることだ。口出しすることは許さない」
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