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第三十七話
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久しぶりに足を運んだ鍛錬場にどこかほっとしてしまう自分がいた。すでに鍛錬は始まっており、金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。他にも砂を踏む音や風に乗って鼻をくすぐる汗の匂い、鉄の武器の匂い全てが懐かしい。
半年振りの感覚に、治癒魔法として仕事をしていた時の記憶が甦ってくる。硬く踏まれた土の上を歩きながら、いつも使っていた所定の場所まで移動をしていると、一人の騎士がエマの名前を呼んだ。
「聖女エマ様がいるぞ!!」
騎士の声は大きく、周囲の者がその声に釣られるように剣を振るう手を止める。次々にエマの存在に気づいていった騎士たちが増え、エマが所定の場所へと辿り着く前に騎士たちによって囲われてしまった。節度のある騎士たちのおかげで、エマがもみくちゃにされることはなかったが、この騎士の壁を抜け出すのはウィリアムの力を借りても難しいものがある。
それに助けてもらおうにも、ウィリアムは最初からこうなると踏んでいたのか、エマに触れる者がいないかを見張るだけで、行動を起こす素振りすらない。エマは仕方なく、その場で騎士たちの声に耳を傾けることにした。
「本当だ! 聖女エマ様、回復されて何よりです!!」
「魔物討伐の際、治癒魔法を施してくださってありがとうございました!」
「後遺症を覚悟した傷も、後遺症どころか傷跡なく帰還することができました!」
エマの身体のことを心配していた声や、エマの治癒魔法に感謝をする声が後を絶たず、全てに返事をしようにも、時間が経つ事に騎士たちが増えて、収集がつかなくなってしまう。最終的に誰が何を言っているのかわからなくなってきたところで後ろから一際大きな声が鍛錬場に響き渡った。
「整列っ!!」
その声が各自の耳に届いた途端、まるで先程までの姿が嘘かのようにエマの元から去って行き、声の主に元へ整列する。すごいものを見た、と感心していると、声の主であるウィルフレッドが苦笑しながら傍によってきた。
「ウィリアム、主人を助けなくてよかったのか?」
「今助けても、治癒魔法師として仕事で通う限り、いつかは起こっていたことですので。それならば一介の侍従よりも、騎士団副団長であるウィルフレッド様が鍛錬場にいる今日に、言いたいだけ言わせて収集をしてもらった方が一番お嬢様の負担が少なくなると思いまして」
助けなかった理由が、ウィリアムの中では一応あったようだ。というよりも、鍛錬場の中に他の騎士たちと同じ隊服を身に纏ったウィルフレッドを見つけていたことの方が驚きである。
「半年前の魔物討伐で功績を上げたものが言う言葉ではないがな」
「私は功績を上げたくて参加していたわけではございませんので。あくまでも、私はお嬢様の身をお守りするために参加しただけです」
エマを守ったら爵位を貰えた。爵位をついで扱いするウィリアムに、エマとウィルフレッドは苦笑を隠しきれなかった。
「俺の部下に欲しいくらいだ」
「申し訳ございませんが、私がお仕えするのは生涯お嬢様だけと決めておりますので」
自身の意思を決して曲げないウィリアムをウィルフレッドがひとしきり羨ましがったあと、治癒魔法師として半年振りの仕事をすることになった。
「メア・ドーナ・アボートゥム・エイウス・サーナ・ヴルネラ」
擦り傷や打撲など、傷の大きさは様々だ。しかしその全てを治癒することは、その人の治癒能力を下げてしまう恐れがあるため、治癒魔法で完全に回復させることは魔物討伐の時以外はしないのが決まりだ。数日で治るものや、鍛錬に支障がない傷は、医師の手当てで治すことがほとんどである。そのため治癒魔法師の出番が来ることは少ないが、一度もないことはない。
明らかに打撲以上の怪我や、抉れて骨の見えそうな傷を負ってくるのは、なんだかんだであったりするものだ。
令嬢時代では到底見ることのなかった類の怪我を、冷静に診察して適切な治癒魔法をかけていく。半年前と違って魔力の量が多くなり、そんな膨大な魔力を扱えるように血の滲む努力をしたからなのか、明らかに治癒魔法の質が上がっていることに、治癒魔法をかけている時に気がついた。それは怪我を治療してもらっていた騎士や、見守っていた騎士も同様に気づいたらしく、数十秒もしないうちに治った傷を見て、誰もが瞳を輝かせていた。
「さすが聖女エマ様だ! あ、いや……王太子妃様と今後はお呼びした方がよろしいのでしょうか? とにかくありがとうございます!!」
治療した騎士は、抉れて骨が見えてはずの腕を上げる。治癒された腕は、怪我が嘘かのように治っており、遠巻きから見ていた騎士たちからもどよめきの声が広がる。
「この制服を着ている時はエマで構いません。王太子妃となっても、頻度は少なくなってしまいますが、治癒魔法師は続けていくつもりですので」
「では改めまして、聖女エマ様。ありがとうございます!」
さすがにレオナルドの隣でドレスを着て立っている時は困るが、制服を着ている時だけは一介の治癒魔法師に過ぎない。その旨を伝えると、周囲の騎士たちからは喜びの声が上がった。
エマが治癒魔法師を続けることに喜んでくれる騎士がこれほどいるとは思わず、その声に頬を緩みが止まらなくなってしまう。
そんなことがありながらも、仕事は順調に進んでいった。
半年振りの感覚に、治癒魔法として仕事をしていた時の記憶が甦ってくる。硬く踏まれた土の上を歩きながら、いつも使っていた所定の場所まで移動をしていると、一人の騎士がエマの名前を呼んだ。
「聖女エマ様がいるぞ!!」
騎士の声は大きく、周囲の者がその声に釣られるように剣を振るう手を止める。次々にエマの存在に気づいていった騎士たちが増え、エマが所定の場所へと辿り着く前に騎士たちによって囲われてしまった。節度のある騎士たちのおかげで、エマがもみくちゃにされることはなかったが、この騎士の壁を抜け出すのはウィリアムの力を借りても難しいものがある。
それに助けてもらおうにも、ウィリアムは最初からこうなると踏んでいたのか、エマに触れる者がいないかを見張るだけで、行動を起こす素振りすらない。エマは仕方なく、その場で騎士たちの声に耳を傾けることにした。
「本当だ! 聖女エマ様、回復されて何よりです!!」
「魔物討伐の際、治癒魔法を施してくださってありがとうございました!」
「後遺症を覚悟した傷も、後遺症どころか傷跡なく帰還することができました!」
エマの身体のことを心配していた声や、エマの治癒魔法に感謝をする声が後を絶たず、全てに返事をしようにも、時間が経つ事に騎士たちが増えて、収集がつかなくなってしまう。最終的に誰が何を言っているのかわからなくなってきたところで後ろから一際大きな声が鍛錬場に響き渡った。
「整列っ!!」
その声が各自の耳に届いた途端、まるで先程までの姿が嘘かのようにエマの元から去って行き、声の主に元へ整列する。すごいものを見た、と感心していると、声の主であるウィルフレッドが苦笑しながら傍によってきた。
「ウィリアム、主人を助けなくてよかったのか?」
「今助けても、治癒魔法師として仕事で通う限り、いつかは起こっていたことですので。それならば一介の侍従よりも、騎士団副団長であるウィルフレッド様が鍛錬場にいる今日に、言いたいだけ言わせて収集をしてもらった方が一番お嬢様の負担が少なくなると思いまして」
助けなかった理由が、ウィリアムの中では一応あったようだ。というよりも、鍛錬場の中に他の騎士たちと同じ隊服を身に纏ったウィルフレッドを見つけていたことの方が驚きである。
「半年前の魔物討伐で功績を上げたものが言う言葉ではないがな」
「私は功績を上げたくて参加していたわけではございませんので。あくまでも、私はお嬢様の身をお守りするために参加しただけです」
エマを守ったら爵位を貰えた。爵位をついで扱いするウィリアムに、エマとウィルフレッドは苦笑を隠しきれなかった。
「俺の部下に欲しいくらいだ」
「申し訳ございませんが、私がお仕えするのは生涯お嬢様だけと決めておりますので」
自身の意思を決して曲げないウィリアムをウィルフレッドがひとしきり羨ましがったあと、治癒魔法師として半年振りの仕事をすることになった。
「メア・ドーナ・アボートゥム・エイウス・サーナ・ヴルネラ」
擦り傷や打撲など、傷の大きさは様々だ。しかしその全てを治癒することは、その人の治癒能力を下げてしまう恐れがあるため、治癒魔法で完全に回復させることは魔物討伐の時以外はしないのが決まりだ。数日で治るものや、鍛錬に支障がない傷は、医師の手当てで治すことがほとんどである。そのため治癒魔法師の出番が来ることは少ないが、一度もないことはない。
明らかに打撲以上の怪我や、抉れて骨の見えそうな傷を負ってくるのは、なんだかんだであったりするものだ。
令嬢時代では到底見ることのなかった類の怪我を、冷静に診察して適切な治癒魔法をかけていく。半年前と違って魔力の量が多くなり、そんな膨大な魔力を扱えるように血の滲む努力をしたからなのか、明らかに治癒魔法の質が上がっていることに、治癒魔法をかけている時に気がついた。それは怪我を治療してもらっていた騎士や、見守っていた騎士も同様に気づいたらしく、数十秒もしないうちに治った傷を見て、誰もが瞳を輝かせていた。
「さすが聖女エマ様だ! あ、いや……王太子妃様と今後はお呼びした方がよろしいのでしょうか? とにかくありがとうございます!!」
治療した騎士は、抉れて骨が見えてはずの腕を上げる。治癒された腕は、怪我が嘘かのように治っており、遠巻きから見ていた騎士たちからもどよめきの声が広がる。
「この制服を着ている時はエマで構いません。王太子妃となっても、頻度は少なくなってしまいますが、治癒魔法師は続けていくつもりですので」
「では改めまして、聖女エマ様。ありがとうございます!」
さすがにレオナルドの隣でドレスを着て立っている時は困るが、制服を着ている時だけは一介の治癒魔法師に過ぎない。その旨を伝えると、周囲の騎士たちからは喜びの声が上がった。
エマが治癒魔法師を続けることに喜んでくれる騎士がこれほどいるとは思わず、その声に頬を緩みが止まらなくなってしまう。
そんなことがありながらも、仕事は順調に進んでいった。
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